ヨーネ病感染初期子牛にみられるヨーネ菌ストレス関連蛋白質に対する抗体応答

要約

ヨーネ菌がストレス環境下で発現するストレス関連蛋白質の遺伝子組換え抗原に対し、ヨーネ病感染初期の子牛(感染後30週以内)において抗体応答が認められることから、これらの抗原に対する宿主免疫応答の解析は、ヨーネ病の発病機構の解明や早期診断法の開発に有用である。

  • キーワード:ヨーネ病、ヨーネ菌、ストレス関連蛋白質、感染初期、ELISA
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現行のヨーネ病抗体検査では、病状の進行した感染後期になるまで抗体応答を検出するのが難しい。本疾病の原因菌であるヨーネ菌は、宿主細胞内あるいは自然環境中で長期間生存可能であり、この間多様なストレス環境に曝されることが想定される。ヨーネ菌がストレス環境下で発現するストレス関連蛋白質は、本菌がその環境に適応・生存するために重要であると考えられ、宿主生体内においては感染防御に抵抗するため特に感染初期あるいは不顕性感染期に発現していることが推測される。本研究では、感染後30週までの子牛についてヨーネ菌ストレス関連蛋白質に対する抗体応答の推移を経時的に観察する。

成果の内容・特徴

  • すでに同定されているヨーネ菌ストレス関連蛋白質より表1に示す11種類について遺伝子組換え抗原を作製し、ヨーネ菌実験感染牛(16頭)および非感染牛(3頭)について抗体応答の経時的変化をELISA法により解析する。太字で示した5種類の抗原は、感染牛のみが抗体応答を示し、非感染牛に対する免疫原性は認められない。
  • 上述の5抗原に対する感染初期子牛の抗体応答には大きな個体差が認められ、「持続型」、「ピーク型」、「応答なし」の3つのパターンに分類される(図1)。16頭の感染牛がそれぞれの抗原に対してどのパターンを示したかをまとめたところ、MAP1589c (AhpC)では持続型が優勢であったことを除き、特徴は認められない(表2)。
  • 感染牛16頭中14頭(87.5%)がヨーネ菌接種後30週以内に上述の5抗原のうち少なくともひとつに対して応答することが確認され、早いものでは接種後2週間から抗体レベルの上昇が確認される。特にAhpCに対しては、87.5%と多くの感染牛が応答する(表2)。一方、同じ血清サンプルを用いて市販ELISAキットにより抗体上昇が認められたのは2頭(12.5%)のみである(表2)。

成果の活用面・留意点

  • ヨーネ菌は、感染初期の子牛において、感染局所でストレス関連蛋白質を発現していることが示唆された。これらの蛋白質は本菌が子牛の体内環境に適応・生存するために重要であると考えられ、今後、ヨーネ病の特徴である長期の潜伏・持続感染から発症にいたる過程の解明につながることが期待される。
  • ヨーネ菌ストレス関連蛋白質を用いることにより、市販ELISAキットによる現行の抗体検査では摘発困難な時期に感染牛を検出できる可能性がある。今後、サンプル数を増やして感度・特異性について評価する必要がある。

具体的データ

表1~2,図1

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題番号:170a2
  • 予算区分:RS事業
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:川治聡子、永田礼子、Richard J. Whittington(シドニー大学)、森康行
  • 発表論文等:Kawaji S. et al (2012) Vet. Immunol. Immunopathol. 150:101-111