鶏コクシジウムEimeria tenellaの病態を発現する発育ステージの同定と単離方法の確立

要約

E. tenella による鶏コクシジウム症では、第2代無性生殖期虫体が宿主の盲腸粘膜固有層にまで侵入し大型化するため、感染4日目に血便を発症する。この発育ステージの虫体の単離には、レーザーマイクロダイセクションが有効である。

  • キーワード:鶏コクシジウム、生活環、レーザーマイクロダイセクション
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

Eimeria 原虫によって引き起こされる鶏コクシジウム症は、例年おおよそ50~100件程発生しており、養鶏農家において生産性向上の確保に直結する重要な疾病である。しかし、病原性の高いE. tenellaでは、寄生部位となる盲腸組織内における詳細な生活環が未だ不明である。本研究では、鶏の盲腸におけるE. tenella の詳細な生活環を明らかにし、それらの中で病態を発現する発育ステージを同定する。また、顕微鏡下で組織標本にレーザー光を照射して切り出しが可能なレーザーマイクロダイセクション(LMD)を用いて、組織中から病態関連虫体の単離を試みる。

成果の内容・特徴

  • 鶏盲腸組織内でのE. tenella の生活環は、3世代の無性生殖期(シゾントの発育)とその後の有性生殖期(ミクロ・マクロガメトサイトの発育)からなる。ステージが移行する時期には、同時期に2ないし3世代のステージの虫体が混在している (表1)。
  • .第2代無性生殖期のみ寄生部位が盲腸深層の粘膜固有層に及び(その他のステージは上皮細胞内にとどまる)、この時にシゾントは5倍以上の大きさに膨張し、内部に200以上の侵入型虫体(メロゾイト)を包蔵する(図1)。
  • 第2代無性生殖期のシゾントの発育にともない感染鶏の盲腸組織に出血が起こり、感染4日目に血便が排泄される。
  • LMDを用いて感染鶏の盲腸組織標本から第2代シゾントのみを切り出し、単離することができる。単離されたシゾントから良質のRNA を得ることができ、PCRによる遺伝子解析が可能である(図2)。

成果の活用面・留意点

  • LMDによりE. tenella の発育に係る遺伝子の網羅的探索が可能となり、本感染症の防御法と治療法の開発に重要となる発症機構の解明に繋がる。
  • E. tenella のいくつかの発育ステージは同時期に混在することから、従来の比重法では単一ステージの虫体の精製は困難である。

具体的データ

 表1,図1~2

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:松林 誠、八田岳士、辻尚利
  • 発表論文等:Matsubayashi M. et al. (2012) Parasitology 139(12):1553-1561