フタトゲチマダニ成ダニに適用可能な人工吸血法

要約

フタトゲチマダニ成ダニに適用可能な人工吸血法は、従来の宿主動物を用いた感染実験を行わずに、病原体感染マダニを作出可能である。本法は大型ピロプラズマ症などのマダニ媒介感染症の研究に有用な実験手法である。

  • キーワード:フタトゲチマダニ、人工吸血実験系、マダニ媒介感染症、病原体媒介機構
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

放牧では、マダニによる吸血と吸血によって家畜にもたらされる感染症を防除する為のマダニ対策は必須である。そのためには、マダニの病原体伝播機能を解明する必要がある。そこで本研究は、大型ピロプラズマ症病原虫などの病原体感染マダニを簡便に作出することを目的として、飽血マダニを得ることが可能なマダニ人工吸血法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 最初にマウス背部にてマダニを4から5日間、飽血前段階(体重約25mg)まで吸血させた後、本実験系に供試することで、全てのマダニを人工飽血させることができる。使用するマウスの系統はSCID等の特殊かつ高価なマウスを用いる必要がない。
  • 吸血途中のマダニが付着した皮膚を皮下組織とともに剥離し、脱繊維血液を満たしたカプセルに装着させる人工吸血装置を考案する(図1)。
  • 湿箱(30度、80%以上相対湿度)にて本装置をインキュベートすることにより、吸血開始後5時間でほぼ飽血状態となり、遅くとも12から48時間以内で、飽血・落下したマダニ(体重約250mg)を回収することができる(図2)。
  • ウサギ脱繊維血液を用いて人工飽血したマダニ実験群は、動物宿主(ウサギ)に吸血させ飽血した対照群と比較し、飽血時の体重、産卵重量、マダニの産卵能力を示す卵転換効率、卵の孵化率などで、同等の能力を保有している(図3)。また、イヌやウシの脱繊維血液を用いた場合でも、ほぼ同等の成果を得る。
  • マダニ中腸にて発現する血液消化に関連する蛋白質分解酵素などの遺伝子の転写量は、人工吸血による影響を受けない。

成果の活用面・留意点

  • 本実験法を利用することにより、確実に人工飽血したマダニ(成ダニ)を取得することができる。
  • 人工吸血装置に供試する血液は、動物種を問わない。また、薬剤や抗体を添加するなど、人為的に調整することも可能である。
  • 宿主動物を用いずに飽血させることが可能なため、安価・簡便・短期間(わずか一週間程度)で、大型ピロプラズマ症病原体などのマダニ人工感染実験を行うことができる。
  • マダニの血液消化や産卵を抑える抗マダニ薬候補化合物のスクリーニング実験系としても有用である。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:八田岳士、松林 誠、辻 尚利
  • 発表論文等:Hatta T. et al. (2012) Parasit. Vectors. 5:263 (doi: 10.1186/1756-3305-5-263)