口蹄疫ウイルス感染動物とワクチン接種動物の抗体を識別するキットの評価

要約

口蹄疫ウイルス感染動物とワクチン接種動物の抗体を識別するキットの健康動物およびワクチン接種動物に対する特異性は液相競合ELISAと同程度に高い。一方、それらのウイルス野外感染動物に対する感度は液相競合ELISAよりも著しく低い。

  • キーワード:抗体、口蹄疫、ワクチン
  • 担当:家畜疾病防除・国際重要伝染病
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・国際重要伝染病研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

一般に、口蹄疫清浄国で本病が発生した場合、防疫対策として感染動物等の摘発淘汰と移動制限が実施される。しかし、摘発淘汰される頭数が多数となる場合があるため、近年では限定的なワクチン接種が認められる傾向にあり、2010年のわが国での本病発生時もワクチン接種が実施された。そのワクチン接種はワクチン接種動物の殺処分を前提としたものであったが、発生状況、殺処分動物の埋却による環境汚染、動物福祉および希少な遺伝的資源の保全等の観点から、ワクチン接種動物の殺処分を前提としないワクチン使用も検討しておく必要があるが、その場合、口蹄疫ウイルス感染動物とワクチン接種動物を識別する必要がある。本課題では、わが国で本病が発生した場合の防疫措置として、市販の口蹄疫ウイルス感染動物とワクチン接種動物の抗体識別キットを用いた、ワクチン接種動物の殺処分を前提としないワクチン使用の是非を検討する際の科学的知見を提供する。

成果の内容・特徴

  • 液相競合ELISA(LPBE:ウイルス粒子を抗原とした抗体検出法)および抗体識別キットの健康動物およびワクチン接種動物に対する特異性(非感染動物を陰性と判定する割合)は、LPBEが99.5~100%、キットAが99.0~100%、キットBが96.1~98.4%、キットCが99.5~99.7%である(表1)。
  • LPBEおよび抗体識別キットのウイルス野外感染牛に対する感度(感染動物を陽性と判定する割合)は、LPBEが100%、抗体識別キットが21.6~28.4%である。また、これらのウイルス感染豚に対する感度は、LPBEが100%、キットAが野外感染と実験感染でそれぞれ4.0および85.2%である(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 市販の抗体識別キットは健康動物およびワクチン接種動物に対してLPBEと同程度の高い特異性を示すが、それらのウイルス野外感染動物に対する感度はLPBEよりも著しく低いため、わが国で本病に対するワクチンを接種した場合に、感染動物とワクチン接種動物の識別方法として本キットを用いるためには、使用条件等さらなる検証が必要である。
  • ワクチン接種後にウイルスに感染した動物に対する抗体識別キットの感度を検証する必要がある。

具体的データ

表1~2

その他

  • 中課題名:国際重要伝染病の監視技術の高度化と蔓延防止技術の開発・評価
  • 中課題番号:170a3
  • 予算区分:委託プロ(口蹄疫拡充)
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:深井克彦、坂本研一、森岡一樹、小野里洋行、大橋誠一、菅野徹、吉田和生
  • 発表論文等:Fukai K. et al. (2013) J.Vet.Med.Sci. 75(6):693-699