野生オシドリから分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスの鶏に対する病原性と伝播性

要約

2010-11年に分離された鶏及び野生オシドリ由来のH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスは遺伝学的由来は同一だが、野生オシドリ由来ウイルスに感染した鶏の生存期間は鶏由来株に感染した鶏より長く、ウイルスの鶏間での伝播性も低い。

  • キーワード:H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザ 鶏 野鳥 病原性 伝播性
  • 担当:大課題:家畜疾病防除・インフルエンザ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2010-11年にかけて国内でH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)による鶏24件、野鳥60件及び飼養鳥3件の発生が認められている。HPAIVの野鳥及び鶏間での感染拡大の要因は未だ不明な点が多く、宿主に対する病原性の解析やウイルスの性質に関する情報の蓄積が必要である。鶏及び野鳥由来として野生オシドリから分離されたHPAIVの鶏に対する病原性、伝播性を解析することにより、野鳥でのHPAIV感染の広がりに伴うウイルスの性状変化を検討する。

成果の内容・特徴

  • 遺伝学的解析から、鶏由来のH5N1亜型HPAIVであるA/chicken/Shimane/1/2010 (Ck10)とA/chicken/Miyazaki/S4/2011 (CkS411)及び野生オシドリ由来のA/mandarin duck/Miyazaki/22M-765/2011 (MD11)の3株のウイルスは遺伝的由来を同一とするウイルスである(図1)。
  • 3種類のウイルスを鶏に経鼻接種することによって全ての感染鶏は死亡するが、全羽死亡するまでの期間は各ウイルス群で異なる。MD11感染鶏の平均生存期間は75.6時間、CkS4及びCk10感染鶏のそれ(51.6時間及び58.8時間)より長く、生存分析によってCkS411とMD11感染鶏の間で統計的な有意差が認められる(図2A)。
  • MD11感染鶏の上部気道及び排泄腔でのウイルス量は、Ck10感染鶏の上部気道のウイルス量とCk10とCkS411感染鶏の排泄腔でのウイルス量よりも有意に低い(図2B)。
  • 1羽の感染鶏と非感染鶏を同一ケージ内に同居させると、全ての非感染鶏にウイルスが感染して死亡する。全羽死亡するまでの時間はMD11試験群で最も遅く、MD11の伝播性は低い(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 遺伝的背景の同じHPAIVにおいても、今回解析した野生オシドリ分離ウイルスは鶏に対する病原性や伝播性が低いことが示された。野鳥で維持されたウイルスが農場の鶏に侵入した際に、鶏でのウイルスの広がりが緩慢となり、感染発見までの時間が遅延する可能性が考えられる。
  • 野鳥及び家禽における鳥インフルエンザウイルスの監視とその性状解析の重要性が示された。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
  • 中課題番号:170b1
  • 予算区分:厚労科研費、農水委託事業
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:内田裕子、西藤岳彦
  • 発表論文等:Uchida Y. et al. (2012) Virus Research 170(1-2):109-117