豚の中で豚インフルエンザウイルスとパンデミックインフルエンザウイルスの遺伝子再集合が起こっている

要約

2009年のヒトでのパンデミックウイルス出現以降、世界各地で同ウイルスが豚に侵入している。日本およびタイで分離された豚インフルエンザウイルスの解析から、これらの国々でもパンデミックウイルスが豚に侵入し、それまでに存在していたウイルスとの間で遺伝子再集合を起こしている。

  • キーワード:パンデミックインフルエンザウイルス 豚インフルエンザ 遺伝子再集合
  • 担当:家畜疾病防除・インフルエンザ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

パンデミックインフルエンザウイルスの出現機構として、ブタでインフルエンザウイルスの遺伝子再集合体が出現し、ヒトに伝播することが知られている。2009年にヒトでのパンデミックインフルエンザ(pdm)ウイルスの出現に伴って、pdmウイルスの豚への感染が世界的に進んでいる。豚でのpdmウイルスの感染拡大は、養豚産業に重大な経済的損失を与えるのみでなく、これまでにブタで循環している既存のブタインフルエンザウイルス(SIV)との間での新たな遺伝子再集合体の出現につながるリスクが存在する。ブタにおけるpdmウイルスの浸潤状況とそれらの遺伝子再集合を監視して、新たな新型インフルエンザウイルスの発生予察に活用する。

成果の内容・特徴

  • 2011年2月にタイ中央部チャチェンサオ県の養豚農家から分離されたH1N1亜型のインフルエンザウイルスは、ヒトpdmウイルスに由来する。
  • 同月に隣県(チョンブリ県)の養豚農家から2株のH3N2亜型ウイルスが分離された (A/swine/Chonburi/26/2011, A/swine/Chonburi/28/2011)。このウイルスの表面抗原であるHA(図1)およびNA遺伝子は、タイの豚で循環している既存のSIVに由来し、残りの6本の内部遺伝子はpdmウイルスに由来している。このことは、ヒトpdmウイルスがブタに侵入した後、それまでに豚で循環していたウイルスと遺伝子再集合を起こしたことを示している(図3)。
  • このウイルスのH3HA遺伝子は、1996年前後にヒトで流行していた季節性インフルエンザウイルスに由来しているが(図1)、そのHAタンパク質の抗原性は、現在ヒトで循環しているH3亜型の季節性ウイルスの抗原性とは異なっている。
  • 2009年、2010年に大阪、山形で分離されたH1N1亜型SIVはpdmウイルスである。
  • 栃木県、三重県で2011年、2012年に分離されたウイルスは、その表面抗原であるHA, NA遺伝子は従来から国内で循環していたH1N2亜型のSIVに由来し、その他6本の内部遺伝子はpdmウイルスに由来している遺伝子再集合ウイルスである(図2、3)。

成果の活用面・留意点

  • 既存のSIVに対するワクチンは、豚に侵入したpdmウイルスに対する効果が低いことが危惧される。また、pdmウイルスとSIVの遺伝子再集合により、ヒトに感染する新たなウイルスが出現する可能性があり、これらがヒトで流行を引き起こすことが懸念される。
  • 豚でのインフルエンザ流行の養豚産業に及ぼす経済的損失と公衆衛生に及ぼすリスクと現行ワクチンの有効性の適切な評価のために、豚におけるインフルエンザサーベイランスが重要である。

具体的データ

 図1~3

その他

  • 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
  • 中課題番号:170b1
  • 予算区分:厚労科研費・拠点プロ
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:西藤岳彦、廣本靖明、松鵜彩(機構特別研究員)、内田裕子、林豪士(機構特別研究員)、小林朋子(機構特別研究員)、Sujira Parchariyanon (NIAH,タイ), Naree Ketusing (NIAH,タイ), Punnaporn Netrabukkana (マードック大学、オーストラリア), 馬渡隆寛(山形県中央家畜保健衛生所)、葛西知江(大阪府家畜保健衛生所)、米山州二(栃木県県央家畜保健衛生所)、中村涼子(三重県中央家畜保健衛生所)、衛藤真理子(農水省動物検疫所)
  • 発表論文等:
    1) Hiromoto Y. et al. (2012) Virus Research 169:175-81
    2) Matsuu A. et al. (2012) Microbiol. Immunol. 56:792-803