唾液を用いたBSE生前診断法
要約
牛海綿状脳症(BSE)感染牛の唾液中に存在する異常プリオン蛋白質を試験管内増幅法により発症前あるいは発症後に検出できる。この手法を用いてBSE感染牛を早期発見(生前診断)できる可能性がある。
- キーワード:BSE、プリオン、唾液、PMCA、生前診断
- 担当:家畜疾病防除・プリオン病
- 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所・プリオン病研究センター
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
牛海綿状脳症(BSE)の原因となる異常プリオン蛋白質(PrPSc)は脳などに蓄積するが、一般的な感染症でみられる生体反応がないことから、その診断には死後材料を用いた検査が行われており、BSEの有効な生前診断法は確立されていない。そこでPrPScを高感度かつ高効率に試験管内で増幅する蛋白質ミスフォールディング循環増幅(Protein Misfolding Cyclic Amplification :PMCA) 法により、BSEの非侵襲的な生前診断の可能性を検討する。
成果の内容・特徴
- 従来の定型BSE感染牛の脳乳剤を牛に経口的に接種するとBSEの臨床症状である異常行動、知覚過敏反応(音や物の動き、体表への接触等に過敏に反応する)、異常歩様などの症状を示す(発症)。発症牛のうち経口接種後56か月以降、4か月おきに採取した3頭の牛の唾液を用いて、PMCA法でPrPScを増幅する。
- 唾液を100倍濃縮することにより、3頭のうち1頭は発症前2ヶ月(経口接種後63か月)から、他の2頭は発症時あるいは発症初期(経口接種後65か月と83か月)以降に唾液からPrPScが検出される(図1、2)。
- 唾液中のPrPScは連続PMCAの3回目以降で明瞭に検出される(図1)。
成果の活用面・留意点
- 本成果はBSE感染牛の非侵襲的な早期発見(生前診断)に活用できる可能性がある。
- 濃縮した唾液を用いたPMCA法により、PrPScが効率的に検出される。
- マウスを用いたバイオアッセイで感染性が検出されるのはBSE牛の脳乳剤を1万倍希釈したところまでであるが、PMCA法では10億倍希釈した唾液中からPrPScが検出されることから、発症牛であっても唾液中に含まれるPrPSc量は感染性を示すレベル以下であると考えられる。
- 今回用いたPMCA法は非定型BSEには有効ではなく、これらを検出するためには新たなPrPSc増幅方法の開発が必要である。
具体的データ

その他
- 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE等のプリオン病の清浄化技術の開発
- 中課題番号:170b2
- 予算区分:委託プロ(BSE)
- 研究期間:2011~2012年度
- 研究担当者:岡田洋之、村山裕一、吉岡都、舛甚賢太郎、今村守一、岩丸祥史、松浦裕一、宮澤光太郎、横山 隆、毛利資郎
- 発表論文等:Okada H. et al. (2012) Emerg. Infect. Dis. 18(12):2091-2092 (doi:10.3201/1812.120528)