豚丹毒菌の病原性発揮に莢膜多糖を修飾するフォスフォリルコリンが重要である

要約

豚丹毒菌の重要な病原因子である莢膜は極めて多様な多糖から構成されるとともに、フォスフォリルコリンで修飾された特異な構造を示し、フォスフォリルコリンによる修飾の有無が莢膜の病原因子としての役割に重要である。

  • キーワード:豚丹毒菌、莢膜、フォスフォリルコリン、病原性
  • 担当:家畜重要疾病・先端的疾病防除技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚丹毒菌Erysipelothrix rhusiopathiaeの莢膜は、本菌の抗貪食作用と食細胞内生残に重要な役割を果たすことが示唆されている。フォスフォリルコリン(PCho)は生体膜などの重要な構成成分であるフォスファチジルコリン合成における中間物質であるが、多くの病原菌の表層で見つかっており、血小板活性化因子レセプターを介した組織侵入に関わるなど、病原性への関与が明らかとなっている。そこで、本菌の病原性におけるPChoの役割を明らかにするために、莢膜合成機構の遺伝学的解析及び莢膜多糖の生化学的分析を行う。

成果の内容・特徴

  • 豚丹毒菌の莢膜生合成に関わるオペロン(cps)は、 PChoの生合成に関わるオペロン(lic)と染色体上にタンデムに存在し、それらは1本のmRNAにより転写される。
  • ウエスタン・ブロット法による莢膜多糖とPChoの移動度は同様であり、PChoの莢膜多糖への化学的な結合が示唆される(図1)。
  • 精製した莢膜について、HPLCによる解析を行ったところ、主要な構成単糖は、ガラクツロン酸、ガラクトース、マンノース、グルコース、アラビノース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、その他微量単糖として、リボース、ラムノース、N-アセチルガラクトサミンが検出される。
  • 精製した莢膜について、質量分析及びNMR法による解析を行ったところ、本菌の莢膜多糖は不均一であり、さらに、精製莢膜成分はPChoを含む(図2)。
  • 免疫電顕による解析では、莢膜多糖とPChoは菌体表層に共局在する(図3)。
  • マウスを用いた病原性試験で、PCho欠損変異株はマウスに対する病原性を喪失する(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 豚丹毒菌は、グラム陽性菌の中で分子系統学的にユニークな位置にある。本菌莢膜の組成と構造が複雑であることは、それとの関連が示唆されるため、本成果の情報は、他のグラム陽性菌の莢膜を含む細胞表層体構造や病原性を解析する上でも有用である。
  • 本菌の抗貪食作用及び細胞内生残性に重要な役割を果たすと考えられる莢膜の成分がより詳細に明らかとなったことで、本菌を安全なワクチンベクターとして開発するための有益な情報が提供される。

具体的データ

 図1~3、表1

その他

  • 中課題名:先端技術を利用した新しい疾病防除技術の確立
  • 中課題番号:170c2
  • 予算区分:委託プロ(ワクチン開発)
  • 研究期間:2012年度
  • 研究担当者:下地善弘、小川洋介、施 芳、江口正浩、白岩和真
  • 発表論文等:Shi F. et al. (2012) Infection and Immunity 80(11): 3993-4003