炭素吸着剤の飼料添加はダイオキシン類の鶏卵蓄積を抑制する
要約
木質バイオマスを原料とした炭素吸着剤を飼料に添加すると、採卵鶏に対し産卵成績を含め有害な生体影響を及ぼすことなく、鶏卵へのダイオキシン類の蓄積を抑制できる。
- キーワード:ダイオキシン類、炭素吸着剤、産卵鶏、鶏卵、毒性等量(TEQ)
- 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
- 代表連絡先:電話 029-838-7708 (情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ヒトのダイオキシン類の摂取経路の90%は食品である。近年、EUを初めとする多くの国で鶏飼料を介したダイオキシン類の鶏卵に対する汚染事故が報告されている。わが国を含め、飼料および畜産物のダイオキシン類汚染に関する持続的なモニタリングが実施されているが、モニタリングだけでは突発的な汚染事故には対応できない。経済性と効率性を兼ね備えた飼料から卵へのダイオキシン類移行抑制手段があれば、突発的な事故発生時の被害を最小限に食い止めることができる。
そこで、過去に肉への蓄積抑制効果が認められた(動物衛生研究所成果情報:2010)木質バイオマスを原料としたダイオキシン類と親和性のある炭素吸着剤(フードセイバー®)を飼料に添加し、採卵鶏へのダイオキシン類暴露試験を行い、鶏へのダイオキシン類の吸収を阻害することによる鶏卵へのダイオキシン類移行抑制効果と生体への影響を検討する。
成果の内容・特徴
- 24羽の雌性白色レグホン(ジュリア系)雛を通常の飼料で11週間飼育し、6羽ずつ、系群に分け、さらに20週間添加飼料によって飼育した。対照群には通常飼料「A群」と、活性炭を0.5%添加したものを与えた「B群」、曝露群には、ダイオキシン類のみを添加した「C群」と、ダイオキシン類+活性炭を0.5%添加した「D群」の4群を設定した。添加飼料のダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン+ポリ塩化ジベンゾフラン+コプラナーPCB)の濃度は約6ng-TEQ/kgとした。ダイオキシン類の定量分析は、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析装置(HRGC/HRMS)によって行った。
- 全ての群の増体に差はなく、病理組織学的検査では、臓器・組織での異常所見は認められない。血液生化学検査でも、炭素吸着剤の添加による有意な差は認められない。さらに、産卵鶏の増体、産卵数、卵重、産卵率および鶏卵中の脂肪含量について全ての群で有意な差は観察されなかった (表)。炭素吸着剤の生体への有害影響はほとんどないと考えられる。
- ダイオキシン類添加群(C群)では、産卵開始から徐々にダイオキシン類濃度の上昇がみられる。一方、ダイオキシン類+炭素吸着剤添加群(D群)では、産卵開始時から全く上昇が認められず、低い値を維持しており、卵への移行抑制効果が認められる(図1)。また、産卵系の組織中のダイオキシン類蓄積の大幅な抑制効果が認められる(図2)。
成果の活用面・留意点
- 炭素吸着剤を飼料に添加すると、卵中の粗脂肪含量には影響がないものの、データを示していないが、脂溶性ビタミンは若干低下する。産卵鶏への健康影響は見られず、低下した値も食品標準成分記載の値以下ではないことから、吸着剤の実用性に影響することはほとんどない。
具体的データ
その他
- 中課題名:飼料等の家畜飼養環境の安全性確保技術の開発
- 中課題番号:170d1
- 予算区分:交付金、共同研究
- 研究期間:2006~2009年度
- 研究担当者:グルゲ・キールティ・シリ、山中典子、谷村信彦、藤田寛之(愛媛大)、岩切良次(環境調査研修所)、本田和久(愛媛大)
- 発表論文等:Fujita H. et al. (2012) Chemosphere 88(7):820-827