牛コロナウイルススパイク糖蛋白の284番目のアミノ酸は中和抗原決定基である

要約

牛コロナウイルスの中和モノクローナル抗体に対して中和抵抗性を獲得した変異株の遺伝子解析結果は、スパイク糖蛋白の248番目のアミノ酸が牛コロナウイルスの中和抗原決定基であることを示している。

  • キーワード:牛コロナウイルス、スパイク糖蛋白、中和抗原決定基
  • 担当:家畜疾病防除・大規模酪農衛生
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・寒地酪農衛生研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛コロナウイルス(BCoV)は、新生子牛や成牛に下痢や呼吸器症状を引き起こし、特に酪農家にとっては飼養牛の乳量低下による経済的損失が著しい。BCoVの血清型は単一とされるが日本の流行株間には抗原性の差が認められることから、防除法の一つであるワクチンに関しても将来的に新たなウイルス株を選択する必要がある。しかし、本ウイルスの中和抗原決定基についての詳細な解析は十分に行われていない。そこで、BCoVの抗原性状の分子基盤を明らかにすることを目的に、本ウイルスの中和抗原決定基を特定する。

成果の内容・特徴

  • BCoV掛川株を用いて作製したモノクローナル抗体(Mab)4H4は、掛川株に対して高い中和活性を示すが、近年の流行株に対する中和能は低下している(表1)
  • Mab 4H4は、ウイルス構造蛋白の一つであるスパイク糖蛋白中、ウイルス粒子表面に突出するS1領域上の立体的な中和抗原決定基を認識する(図1)。
  • ウイルス培養上清と4H4培養上清を共培養することにより、中和抗原決定基に変異が起きた結果、中和抵抗性を獲得した変異株(中和抵抗性変異株)が得られる。
  • Mab 4H4に対する中和抵抗性を得たBCoV変異株15株には、スパイク糖蛋白の284番目のアミノ酸にバリンからアラニンへの置換が確認される(図2)。これは既報の528番目のアミノ酸と異なる新たな抗原決定基である。

成果の活用面・留意点

  • BCoV Quebec株の351-403そして517-621アミノ酸領域(ドメインIおよびII)は立体的な構造を持つ中和抗原領域であり、その528番目のアミノ酸は中和抗体が認識して結合する中和抗原決定基である(図2)。本成果はBCoVの新たな中和抗原決定基の報告であり、BCoVの抗原性状の分子基盤を明らかにするための有用な知見となる。
  • 野外ではウイルス遺伝子の変異に伴い抗原性の変化もおきていることから、流行株を用いた抗原性解析は、より効果の高いワクチン株選択に際しての指標となる。
  • 抗原性状の分子基盤の解明は、遺伝子工学的手法を用いたワクチン開発に活用される。

具体的データ

表1、図1

その他

  • 中課題名:乳房炎等の大規模酪農関連疾病の診断・防除法の高度化
  • 中課題番号:170e1
  • 予算区分:交付金(重点強化)
  • 研究期間:2008?2009年度
  • 研究担当者:菅野 徹、石原涼子、畠間真一、内田郁夫
  • 発表論文等:Kanno T. et al. (2013) Arch. Virol. 158(5):1047-1053