ノトバイオート子豚は豚エンテロウイルス性脳脊髄炎発病解析モデル動物となる

要約

ノトバイオート子豚を用いた感染実験により豚エンテロウイルス性脳脊髄炎の病態を忠実に再現可能である。本ウイルスの脳への侵入と脳脊髄炎発症にはウイルス血症が重要な役割を果たし、後躯麻痺と脳脊髄炎の病変分布は本症の診断の指標となる。

  • キーワード:豚テシオウイルス、ノトバイオート豚、脳脊髄炎
  • 担当:家畜疾病防除・ウイルス感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚エンテロウイルス性脳脊髄炎(PEE)は原因ウイルスであるピコルナウイルス科豚テシオウイルス(PTV)、豚サペロウイルス(PSV)、または豚エンテロウイルスB(PEV-B)を経口摂取することによって感染、発症すると考えられている監視伝染病である。しかし、通常の感染実験では神経症状を伴う脳脊髄炎病変を再現させることが非常に難しいため、本病の病理発生機序は明らかにされていない。そこで症状と病変を再現可能なノトバイオート子豚を用いた実験モデルを確立し、発病機構を解析することによって、PEEの早期診断、発生予防及び疾病防除に活用する。

成果の内容・特徴

  • 母豚から無菌的に取り出され、アイソレーター内で人工保育されたノトバイオート子豚にPTVを静脈内、経口及び経鼻接種すると野外例で認められた病態が再現できる(図1、2)。
  • PTV感染ノトバイオート子豚には特徴的な後躯麻痺(図1)が観察される。この後躯麻痺は回復する場合もある。
  • 非化膿性脳脊髄炎(図2)は脳幹部、脊髄及び脊髄神経節を中心にみられ、大脳半球にはほとんど病変を形成しない。
  • PTVは血行性に脳に運ばれ、脳の血管にまず感染し(図3)、そこから脳実質内に侵入して神経細胞の細胞質内で増殖する。
  • 病変の最も強い脊髄からのウイルス分離は難しく、ウイルス分離用採材部位としては小脳及び脳幹部が望ましい。

成果の活用面・留意点

  • ノトバイオート子豚は豚のPEEの有効な発病解析モデル動物となることが確認され、本病の病理発生解明に今後活用されることが期待される。
  • 本病でみられる後躯麻痺と脳脊髄炎の病変分布の特徴は他疾病との鑑別診断の指標として活用できる。
  • PTVのみならずPSVやPEV-BもPEEの原因ウイルスであることから、これらのウイルスについてもノトバイオート子豚を用いた感染実験を行い、臨床症状やウイルス排泄、組織病変の特徴等を把握する必要がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防除技術の確立
  • 中課題整理番号:170a1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013 年度
  • 研究担当者:山田学、宮崎綾子、山本佑、中村菊保、恒光裕
  • 発表論文等:Yamada M. et al. (2013) J. Comp. Pathol. 150(2-3):276-286