豚レンサ球菌全35血清型の莢膜多糖合成関連遺伝子群の同定

要約

豚レンサ球菌全35血清型の莢膜多糖合成関連遺伝子群(cps gene cluster)の構造は多様であり、31血清型については、血清型特異的なcps遺伝子が認められる。

  • キーワード:豚レンサ球菌、血清型、莢膜多糖、莢膜多糖合成関連遺伝子群(cps gene cluster)
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

人獣共通感染症起因菌として重要な豚レンサ球菌 (Streptococcus suis)は、莢膜多糖(capsular polysaccharide;CPS)の抗原性の相違により35種類の血清型が報告されている。S. suis のCPS合成に関連する遺伝子は染色体上で遺伝子群(cps gene cluster)を形成し、一部についてはその塩基配列が明らかになっている。本研究では、簡便な血清型推定法の開発に資することを目的とし、S. suis の全35血清型参照株のcps gene clusterの構造を解明し、血清型との関連性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 各血清型参照株のゲノム配列から、S. suis の全35血清型のcps gene cluster とその周辺領域の遺伝子構成を明らかにし、各構成遺伝子の機能を推定した(図1)。
  • 全てのcps gene cluster に、複数の糖転移酵素、細胞内で合成された糖鎖の細胞表面への輸送に関わる酵素 (Flippase)、糖鎖の重合に関わる酵素(Polymerase)がコードされており、抗原性の違いにかかわらず全てのCPSが同じメカニズムで合成されることが示唆される(図1)。
  • 35血清型のcps gene clusterには、合計672個のcps遺伝子が存在し、このうち、197個の遺伝子については血清型特異的である(図1,赤枠遺伝子)。
  • 1型、2型、1/2型及び14型を除く31血清型のcps gene clusterの配列に関しては、各血清型に特異的なcps遺伝子を有しており、その遺伝子構造も血清型により多様である(図1)。一方、1型と14型及び2型と1/2型のcps gene cluster の配列はほぼ一致している(図2)。
  • 1型と14型については、1型のcps遺伝子(糖転移酵素遺伝子)の一つに1塩基欠失によるフレームシフト変異が認められる。両者の糖組成は異なっていることから、少数のcps遺伝子の変異により抗原性(血清型)が変わりうることが示唆される。
  • 2型と1/2型のcps gene clusterには特徴的な相違は認められないことから、cps gene cluster以外の遺伝子も血清型の相違に関与する可能性も示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で同定した血清型特異的cps遺伝子を利用することにより、広範囲な機関で実施可能な血清型推定PCR法の開発が可能となる。
  • 本研究で同定したcps遺伝子の情報は、S. suis の各血清型における莢膜多糖の構造や組成を決定する上で、重要な知見である。
  • cps遺伝子の変異による抗原性の変化や莢膜の欠失が示唆される菌株は野外からも分離されているが、その詳細は不明である。cps遺伝子の変異と血清型の関連は今後の検討課題である。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金、科研費
  • 研究期間:2010~2012 年度
  • 研究担当者:大倉正稔、丸山史人(東京医科歯科大)、野澤孝志(東京医科歯科大)、中川一路(東京医科歯科大)、大崎慎人、関崎勉(東京大)、Marcelo Gottschalk(モントリオール大)、熊谷由美(大阪大)、浜田茂幸(大阪大)、高松大輔
  • 発表論文等:
    1) Okura M. et al. (2013) Appl. Environ. Microbiol. 79(8):2796-2806
    2) 大倉ら(2013) 動物衛生研究所報告No.120:73-75