鶏コクシジウムの胞子形成期に発現する新規遺伝子群

要約

次世代シークエンサーを用いてEimeria tenella の胞子形成期に発現する遺伝子を網羅的に解析し、代謝関連酵素など多くの新規遺伝子が同定された。この遺伝子群には、原虫の生存基盤を支える重要遺伝子が含まれ、新規薬剤標的分子となる可能性がある。

  • キーワード:Eimeria tenella、外界発育期、次世代シークエンサー、新規防除法
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

鶏コクシジウム症はEimeria原虫によって起こり、養鶏現場で大きな問題となっている。そのため、養鶏農家におけるEimeria原虫の防圧の成否は、生産性向上に繋がる重要な課題である。しかし、Eimeria は、トキソプラズマやマラリアなど人に感染する他種原虫と比べて解析が遅れている。特に、防圧対策に必要な基盤情報となる全ゲノムの解読が未完了であり、薬剤標的分子の同定などに弊害が生じている。本研究では、Eimeria tenella の遺伝子を網羅的に探索するため、大量かつ超高速に塩基配列を決定できる次世代シークエンサー(NGS)を用いて、E. tenella の胞子形成期(図1; 胞子形成オーシストは鶏の感染源となり重要)に発現する遺伝子配列の解析を試みる。

成果の内容・特徴

  • 既報の他種生物の遺伝子配列との類似性検索により、NGSにより得られた塩基配列には3,369種の機能が類推できる遺伝子が含まれている。その内訳は、E. tenella の既知遺伝子はわずか6.6%であり、トキソプラズマなどの他種原虫由来の遺伝子が約8割を占めている(図2)。つまり、E. tenella の既知遺伝子以外のものは、今回の解析により新たに同定された遺伝子である。
  • 塩基配列が決定された遺伝子には、代謝関連酵素およびシステインプロテアーゼなど多くの酵素遺伝子が含まれている。E. tenella の外界での胞子形成には、これらの原虫酵素が関連している可能性がある。
  • 得られた酵素遺伝子などから代謝経路を類推できる。有酸素環境下となる胞子形成期において、そのエネルギー供給は我々哺乳類と同様で糖代謝を中心とする解糖系とミトコンドリアでの酸化的リン酸化に依存していることが示唆される。その代謝活性は、胞子形成が完了する48時間で最大である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 複雑な生活環を有するE. tenellaで、発育期別の発現遺伝子情報を大量に得るには、NGSを用いた解析が有用であり、既報の他種原虫の遺伝子機能情報が有効活用できる。
  • 発育期ごとの発現遺伝子群を比較することで、ステージ変換に伴う寄生適応が遺伝子レベルで明らかとなり、生活環を阻止する新規防除法の開発に繋がる。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:松林 誠、八田岳士、辻 尚利
  • 発表論文等:Matsubayashi M. et al. (2013) Infect. Genet. Evol. 18:269-76