近年の豚インフルエンザウイルスHA蛋白質の抗原性の違い

要約

日本とベトナムで流行している豚インフルエンザウイルス(SIV)のHA蛋白質の抗原性が異なっている。また、これらのSIVの抗原性は人季節性インフルエンザウイルスとも異なっている。

  • キーワード:豚インフルエンザ、HA蛋白質、抗原性変異、ワクチン
  • 担当:家畜疾病防除・インフルエンザ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚インフルエンザウイルス(SIV)の膜蛋白質である赤血球凝集素(HA)蛋白質は、本ウイルスに対する中和抗体を惹起する主要抗原である。HA蛋白質の抗原性の変異は、ワクチンによる感染防御能に影響を与えるだけでなく、人季節性インフルエンザウイルスに対する抗体がSIVのHA蛋白質に対して交差反応を持たない場合、SIVのブタ―ヒト感染を可能とする一因であることが知られている。日本では、主にH1N2とH3N2亜型SIVが流行しており、2009年以降は、パンデミック(H1N1)2009 ウイルス(略称:A(H1N1)pdm09v)の人から豚への侵入も確認されている。一方、ベトナムでは、季節性インフルエンザウイルスに由来するHA遺伝子をもつH1N2、H3N2亜型SIVとA(H1N1)pdm09vが循環している。本研究では、日本とベトナムのSIVのHA蛋白質の抗原性を赤血球凝集抑制反応試験(HI 試験)を用いて検討し、人季節性インフルエンザウイルスとの抗原性の違いや各地域の流行株間での抗原性の違いを明らかにする。さらに、日本のSIVに関しては、H1とH3亜型SI に対する不活化ワクチンが販売されているため、ワクチン株と現在の流行株の間での抗原性の違いについても検討する。

成果の内容・特徴

  • 日本とベトナムで分離されたH1亜型SIVのHA蛋白質の抗原性は、人で循環していたソ連型(A/H1N1)季節性インフルエンザウイルスの抗原性と明らかに異なっている(表1)。
  • 同様に両国で分離されたH3N2亜型SIVのHA蛋白質の抗原性も人で循環していた香港型(A/H3N2)季節性インフルエンザウイルスの抗原性と明らかに異なっている(表2)。
  • 両国で分離されたSIVのHA蛋白質の抗原性を比較すると、同じ亜型のSIV同士でも交差反応性が低い(表1、2)。
  • 近年国内で分離されたSIVのHA蛋白質の抗原性は、それぞれのHA亜型SIVのワクチン株(H1亜型:京都株、H3亜型:和田山株)の抗原性と明らかに異なっている(表1、2)。

成果の活用面・留意点

  • 豚で流行中のSIV と人季節性インフルエンザウイルスの抗原性が大きく異なっていることから、SIVの人から豚への感染リスクへの注意が肝要である。
  • 同一亜型のSIVであっても地域間やワクチン株との抗原性の違いが認められたことから、現行SIVワクチンの流行株に対する感染防御能を精査することが必要である。

具体的データ

表1~2

その他

  • 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
  • 中課題整理番号:170b1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2013年度
  • 研究担当者:竹前喜洋、内田裕子、西藤岳彦
  • 発表論文等:Takemae N. et al. (2013) Arch. Virol. 158(4):859-76