肉骨粉製造工程におけるBSEプリオン不活化のPMCA法による迅速評価

要約

牛肉骨粉製造工程で用いられる140°C、1時間の油脂加熱処理では、BSEプリオンは不活化されない。試験管内増幅法(PMCA)により、加熱処理後に残存する感染性を迅速に評価できる。

  • キーワード:BSE、プリオン、不活化、牛肉骨粉、PMCA
  • 担当:家畜疾病防除・プリオン病
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

BSE発生により、飼料として使用が禁止されている牛肉骨粉の有効利用には、BSプリオンの不活化技術とその評価法の開発が不可欠である。我が国の化製工場では、家畜残渣は140°C前後で20分~1時間、油脂中で加熱処理される。各種条件下でBSE感染材料を加熱処理し、処理後に残存する感染性および異常プリオン蛋白質(PrPSc)量との関連を調べ、迅速評価法を開発する。処理サンプル中に残存する感染性は牛プリオン蛋白質過発現マウスを用いた動物接種試験により評価し、PrPSc量は試験管内増幅法(PMCA)で評価する。

成果の内容・特徴

BSE実験感染牛から調製した脊髄乳剤を140、160、180°Cで1時間または3時間、油脂(イエローグリス)中で加熱する。

  • 未処理のBSE脊髄乳剤を牛プリオン蛋白質過発現マウスに脳内接種すると、103倍に希釈したサンプルまで平均生存日数から感染性を定量的に評価できる。しかしながら、104倍以上の希釈率になると生存期間が著しく延長し、あるいは発症に至らないマウスも観察され、動物接種試験による定量的評価はできない(表1)。
  • 1時間の加熱処理では、140°C処理サンプル接種マウスは平均304日で全頭発症・死亡する。一方、160°C処理群の平均生存日数は471日(発症率67%)、180°C処理群では380日(発症率100%)である。3時間の加熱処理では、1時間処理に比べて、発症率の低下と発症期間の延長が認められ、180°C処理群では 発症例は認められない(表2)。
  • 加熱処理および未処理サンプルの10倍希釈段階を作製し、各希釈液を用いて連続PMCAを行い、4回の増幅後、50%のウェルが陽性となる希釈(PMCA50)を算出する。PMCA50を用いると、動物接種試験で感染性が認められないサンプルでも、PrPSc量を評価できる。
  • Log PMCA50は動物接種試験における発症率と相関性が高く、PMCA50により加熱処理後に残存する感染性の有無を推定できる(図1)。

成果の活用面・留意点

  • BSEプリオンを完全に不活化するためには、油脂中での加熱処理だけではなく、蒸製骨粉処理(オートクレーブ)など他の処理法の併用を検討する必要がある。
  • PMCA法はPrPScを超高感度に検出でき、10日程度でPrPSc量を評価できるため、肉骨粉製造工程における油脂中での加熱処理以外の不活化にも迅速評価法として応用できる可能性がある。

具体的データ

図1,表1~2

その他

  • 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE等のプリオン病の清浄化技術の開発
  • 中課題整理番号:170b2
  • 予算区分:委託プロ(BSE)
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:吉岡 都、松浦裕一、岡田洋之、下嵜紀子、山村友昭、村山裕一、横山 隆、毛利資郎
  • 発表論文等:Yoshioka M. et al. (2013) BMC Vet. Res. 9(1):134