ブタ妊娠黄体維持における腫瘍壊死因子-α(TNF-α)及びその関連因子の役割

要約

ブタ妊娠時には、発情周期黄体の退行に関与する腫瘍壊死因子-α(TNF-α)およびαTNF 受容体(TNF-R)は、妊娠黄体ではアポトーシス抑制作用をもつTNF 受容体結合因子(TRAF2)を介して黄体細胞の生存や維持に関与する。

  • キーワード:腫瘍壊死因子、妊娠黄体、発情黄体、妊娠維持、ブタ
  • 担当:家畜疾病防除・病態監視技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

黄体は、哺乳動物の妊娠の成立と維持に重要な内分泌組織であり、その維持・退行には種々の生理活性物質が関与する。一方、妊娠初期の流産の原因は様々であり、ストレスや感染症が原因の場合は、炎症性生理活性物質を介して繁殖障害が引き起こされる。炎症性生理活性物質の中でも腫瘍壊死因子-α(TNF-α)は黄体の維持・退行に関与する因子でもあることから、ストレスや感染症が関与する繁殖障害の重要なメデイエーターの可能性がある。本研究は繁殖障害発生機序解明の一端として、TNF-α及びその関連因子のブタ妊娠初期黄体の妊娠維持への関与を明らかにすることをねらう。

成果の内容・特徴

  • 妊娠17日目の黄体中のTNF-α蛋白質濃度は、妊娠13 日目及び発情周期17日目(発情最終日を0日とする)よりも有意に高い(図1)。
  • 黄体のTNF受容体(TNF-R)I蛋白質発現は、妊娠13日目及び17日目ともに発情周期黄体より高く、妊娠13日目よりも17日目で有意に高くなる(図2)。一方、TNF-RII蛋白質発現は、発情周期黄体では退行に伴い有意に減少し、妊娠黄体では妊娠経過に伴い増加する。
  • 妊娠黄体のTNF-α受容体結合因子2(TRAF2)蛋白質発現は、TNF-RI同様妊娠13日目及び17日目ともに発情周期黄体より有意に高く、妊娠経過で増減しない(図3)。
  • 発情周期17日目の黄体では好中球の浸潤、黄体細胞の空胞変性・萎縮・壊死が起こり、多数のアポトーシス小体が出現する。一方、妊娠黄体ではこれらの変化はほとんど起きない(図4)。
  • 発情周期黄体の退行に関与するTNF-α、TNF-RI及びTNF-RIIは、妊娠黄体ではアポトーシス抑制作用をもつTRAF2を介して黄体細胞の生存や維持に関与する。

成果の活用面・留意点

  • 妊娠初期の流産にこれらの生理活性物質が関与するか評価するために、流産時の黄体での作用機序について解析する必要がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:罹病家畜の病態解明と発病監視技術の開発
  • 中課題整理番号:170c1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2013年度
  • 研究担当者:鈴木千恵、吉岡耕治、山田学、宮本亨、眞鍋昇(東大)
  • 発表論文等:Suzuki C. et al. (2014) Vet. Res. Commun. 38(1):1-10