イネ墨黒穂病罹病もみはマウスに28日間反復投与しても有害な影響を及ぼさない

要約

イネ墨黒穂病罹病もみを含む飼料を28日間反復投与されたマウスでは、体重増加、血液生化学的性状・病理組織学的所見に異常はなく、網羅的遺伝子発現解析でも大きな変動が見られなかったことから、罹病もみの生体影響は非常に小さいものと考えられる。

  • キーワード:イネ墨黒穂病、マウス、反復投与試験、網羅的遺伝子発現解析、生体影響
  • 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ墨黒穂病は、古くから知られた真菌によるイネの病害であり、これまで罹病した米の人や家畜に対する有害な影響の報告はないが、詳細な生体に対する影響について明らかにされていない。罹病程度が進み、もみ内が胞子に置き換わって軽くなったもみは風選過程で除去され、また罹病が軽度の米であっても玄米や精米表面に黒色の胞子による着色が起こるため選別され、人の食用に供される可能性はほとんどない。一方、家畜に対しては飼料イネ、飼料米としての利用が増加しており、罹病もみを多量に摂取する場合を考慮すると、家畜に対する有害影響や、有害物質の残留による畜産物の安全性の問題を検証する必要がある。
そこで、栄養障害による有害事象の出現を防ぐため、飼料組成のバランスを崩さない条件で最大量の罹病もみを含有する飼料を設計してマウスに28日間反復給与し、病理学的、血液生化学的な変化を観察して生体影響を検討するとともに、長期的な影響を予察するため、給与マウスの肝臓のmRNAについて、DNAマイクロアレイにより網羅的遺伝子発現解析を行う。

成果の内容・特徴

  • イネ墨黒穂病の病害を受けやすい品種である「わたぼうし」について、墨黒穂病多発圃場由来の高罹病もみと、対照として清浄な条件で栽培、収穫された同品種の種もみを用い、マウス用AIN93M精製飼料と同等の飼料成分を維持しつつ、もみを最大量含む飼料を設計した(表1)。
  • これらの飼料を、雌雄のICRマウス(各群5頭)に6週齢から毎日28日間反復給与した。
  • 給与期間を通じて、体重増加に有意差はない(図1)。給与終了後の解析では、血液生化学的性状について異常はなく、病理組織学的にも対照と明確な違いは認められない。
  • 給与マウスの遺伝子発現プロファイルにも大きな変動は見られない(図2)。

成果の活用面・留意点

  • イネ墨黒穂病に罹病した米の摂取によって有害な生体影響が生じる可能性は非常に小さい。
  • 罹病もみでは炭水化物含量やエネルギー量が減少するなど、飼料価値が低下することもあるので、適切な栽培方法と防除手段を用いて、飼料イネにおいても墨黒穂病の罹病を防ぐべきである。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:飼料等の家畜飼養環境における安全性確保技術の開発
  • 中課題整理番号:170d1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2012年度
  • 研究担当者:山中典子、生澤充隆、谷村信彦、荒井治喜(中央農研)、芦澤武人(中央農研)、石川浩司(新潟県農業総合研究所)
  • 発表論文等:山中ら(2013)動物衛生研究所研究報告No.120:1-8