赤外線サーモグラフィを用いた健康牛の各部位における体表温度差

要約

赤外線サーモグラフィで牛の体表温度を再現良く測定できる。牛の体表温度は左右対称で、部位別の温度差が明らかとなる。赤外線サーモグラフィを用いて牛の体表温度を測定する際には測定距離や牛の月齢などの影響を考慮する必要がある。

  • キーワード:赤外線サーモグラフィ、体表温度、左右差、測定距離、牛
  • 担当:家畜疾病防除・農場衛生管理システム
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

赤外線サーモグラフィは生体の体表温度の分布を非侵襲的に測定し画像化できる。野外において牛の発熱や炎症等の早期発見に赤外線サーモグラフィを活用するためには、再現性の良い測定手法を確立し、健康牛の各部位における体表温度の正常値を把握することが重要である。そこで、赤外線サーモグラフィを用いた健康なホルスタイン種雌牛の各部位における体表温度の測定・解析手技を確立するとともに、各部位における体表温度の違いと左右差の有無等について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 牛の眼縁部の最高温度及び臀部の平均温度について赤外線サーモグラフィ測定の再現性を検討したところ、変動係数は各々0.7%及び0.5%となり、どちらの解析方法も良好な再現性を示す。
  • 牛への測定距離の違いにおける赤外線サーモグラフィ測定値への影響について調べたところ、眼縁部の最高温度は距離依存的に有意な低下が認められる。一方、臀部の平均温度は測定距離を変えても(4m までは)概ね同じ測定値を示す(図1)。
  • 一定の環境条件(室温20°C、湿度60%)で飼育している健康なホルスタイン種雌牛9頭(育成牛5頭:9ヶ月齢、成牛4頭:53ヶ月齢)の各部位における体表温度の違いが明らかになる(図2)。育成牛・成牛のいずれも肛門周囲と眼部が最も体表温度が高い領域で、次いで頸部、肩部、胸腹部、臀部、四肢の順に低下する。また、育成牛・成牛のいずれも体表各部位の体表温度に有意な左右差は認められない(図2)。
  • 育成牛の四肢及び鼻の体表温度は、成牛に比べて高値を示す(図2)。

成果の活用面・留意点

  • ホルスタイン種雌牛(育成及び未経産成牛)の部位別の体表温度差が明らかになったことから、今回の成果は牛の体表温度の異常値を判断する際の指標として役立つ。
  • 赤外線サーモグラフィは、測定距離や牛の月齢などの影響を受けるため、測定時にこれらの情報を必ず記録することが重要である。
  • 今回示した牛の体表温度データは、一定の環境条件下(室温20°C、湿度60%)であることに留意する。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:農場の微生物汚染低減を目指した日本型家畜飼養管理システムの開発
  • 中課題整理番号:170d2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:新井鐘蔵、澤田 浩、福井陽士(千葉県中央家保)、榊原伸一(北海道十勝家保)
  • 発表論文等:
    福井ら(2014)日本獣医師会雑誌67(4):249-254
    榊原ら(2014)日本獣医師会雑誌67(2):125-128