豚レンサ球菌の血清型を推定できる遺伝子タイピング法の開発

要約

豚レンサ球菌の莢膜合成関連遺伝子を検出するマルチプレックスPCRによるタイピング法は、検査現場で実施困難な本菌の血清型を推定できる簡便かつ実用的な手法である。

  • キーワード:豚レンサ球菌、血清型、遺伝子タイピング法、マルチプレックスPCR
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

豚レンサ球菌は養豚産業に経済的な損失を与え、ヒトにも感染しうる人獣共通感染症起因菌である。血清型別は多くの病原細菌で実施されている表層抗原性に基づく型別法であり、豚レンサ球菌では菌体表層を覆う莢膜の抗原性の相違により35の血清型に分類されている。本菌についてはワクチンが市販されているが、特定の血清型以外については防御効果が低いと考えられている。一方、本菌は莢膜の合成に関連する遺伝子領域が他の血清型の領域と交換し、血清型が変換しうることも示唆されている。以上から本菌の病気を起こす株の主要血清型を監視することは本菌感染症をコントロールする上で非常に重要である。しかし、本菌の血清型別用抗血清は診断薬として市販されていないため、一般的な検査機関では実施できず、手技に関しても、煩雑で、交差反応が多く判定が難しい。したがって血清型別に対応した簡便かつ実用的なタイピング方法が求められている。そこで、血清型の相違に寄与する莢膜合成に関与する遺伝子を検出し、血清型を推定できるマルチプレックスPCRによる遺伝子タイピング法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本法は豚レンサ球菌の血清型を推定できる2段階のマルチプレックスPCR法であり、最初のPCRで検査検体を7つのグループに分類し、2回目のPCRで各グループに分類された検体をタイピングする(図1、図2)。
  • どちらのPCRにも細菌全般に保存されている16S rRNA 遺伝子を検出するプライマーが含まれているので、PCRの反応阻害(検体DNAの精製度の不足や阻害因子の混入など)による偽陰性判定を防ぐことができる(図1)。
  • 従来の血清型別で、莢膜の欠失等により血清型別不能となる株のタイピングも本法では可能である(図2)。
  • 本法の活用により、推定ではあるが、検査現場でも主要血清型の監視ができる。また、従来の血清型別を行う場合にも、本法であらかじめ推定した型の抗血清で検査できるため、省力化や迅速化が可能である。
  • 血清型別でも判定が難しい血清型1型と14型及び2型と1/2型については、莢膜合成関連遺伝子領域がほぼ一致するため、本法では識別できない(図1)。

普及のための参考情報

  • 普及対象:国内外の家畜衛生検査施設及び食肉衛生検査施設
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:全国、豚の主要生産国
  • その他:
    1)農林水産省主催の研修会や農場管理獣医師の勉強会、細菌学分野の学会を通じて、全国の家畜保健衛生所等の病性鑑定担当者や獣医師、研究者に向けて情報発信を行うとともに、病性鑑定指針(農林水産省 消費・安全局)の改訂時に本型別法の情報を記載した。
    2)家畜保健衛生所、食肉衛生検査所、国内外の研究者から問い合わせあり。

具体的データ

図1~2

その他

  • 中課題名:細菌•寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断•防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2012~2014年度
  • 研究担当者:大倉正稔、Claude Lachance(モントリオール大)、大崎慎人、関崎勉(東京大)、丸山史人(京都大)、野澤孝志(京都大)、中川一路(京都大)、浜田茂幸(大阪大)、Céline Rossignol(モントリオール大)、Marcelo Gottschalk(モントリオール大)、高松大輔
  • 発表論文等:Okura M. et al. (2014) J. Clin. Microbiol. 52(5):1714-1719