紫外線LEDを用いた微小吸血昆虫(ヌカカ類)の採集装置の開発
要約
家畜の疾病を媒介するヌカカ類は、紫外光に強く誘引されることから、消費電力の少ない紫外線LEDと、軽量のリチウムイオンバッテリーを組み合わせて新規に開発した携帯型採集装置により、疾病防除のための効果的なヌカカ類のモニタリングが可能になる。
- キーワード:媒介節足動物、牛、家禽、アルボウイルス、原虫病
- 担当:家畜疾病防疫・暖地疾病防除
- 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所・温暖地疾病研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
わが国では、ヌカカ類(Culicoides属)に媒介される牛のアルボウイルス感染症や家禽の原虫病により大きな被害が生じている。これらの疾病の発生は、ヌカカ類の分布や発生状況と密接な関係があるため、ヌカカの棲息状況を調べることは疾病予防に不可欠である。これまで、紫外線蛍光灯を誘引光源に用いた採集装置が使われてきたが、大型で消費電力が大きいことが調査を行う上で妨げとなっている。新たに開発する採集装置は、紫外線LEDを誘引光源に使用することで、装置本体を小型化するとともに、電力消費量を抑えて小型のバッテリーで駆動できるようにする。これらの工夫により、携帯が容易、かつ電力の供給がないところでも使用可能な採集装置を開発し、これまで設置が困難であった場所でも、ヌカカ類の調査が手軽に行えるようにする。
成果の内容・特徴
- 誘引光源に砲弾型LED8個を用い、採集筒の底面にヌカカを吸引するための小型のファンを付けた採集装置は、本体が約900 g、高さ22 cm、直径20 cmと軽量・小型なため携帯が容易である(図1、2)。装置は市販のリチウムイオンバッテリー(12V、10 Ah)で20時間以上駆動するため、ヌカカの活動が盛んな薄暮期(夕方)から薄明期(翌朝)の間、畜舎等で採集を行うことが可能である。
- 市販の各種LED光源(紫外線365 nm、紫外線375 nm、青色470 nm、青緑色500 nm、緑色525 nm、橙色600 nm、赤色625 nm)を用いた採集装置を試作し、それぞれを牛舎近傍に夕方から翌朝まで設置してヌカカ類の採集数を比較すると、紫外線LEDを用いた装置が最も高い捕集能を示す(図3)。
- 紫外線LEDを用いた採集装置を、青森、岩手、島根、鹿児島、沖縄各県の計10カ所の牛舎、ならびに鹿児島の1カ所の鶏舎に設置して、27種、21,754個体のヌカカを得られたことは、様々な環境下でも開発した装置が実用に耐えることを示している。
- 本採集装置により、ウシヌカカ(牛のアルボウイルス感染症)やニワトリヌカカ(家禽のロイコチトゾーン症)などの疾病媒介種の分布や発生消長が明らかになり、疾病発生リスクの推定や予防対策に役立てることができる。また、既報の緑色LEDより採集効果が高く、携帯や設置が容易なことから、大規模なモニタリングにも対応が可能である。
普及のための参考情報
- 普及対象:都道府県家畜保健衛生所、動物検疫所
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ヌカカ類によって媒介される家畜の疾病の発生リスクがある地域
- その他:ヌカカは家畜の呼気に含まれる炭酸ガスにも誘引されるため、家畜の近くに装置を設置することで、捕集効率が高まる。現在、本装置は1台5~6万円で製造可能であるが、LEDの低価格化や材料の見直しによるコストの削減が期待される。
具体的データ
その他
- 中課題名:アルボウイルス感染症等の亜熱帯地域に多発する疾病の防除法の開発
- 中課題整理番号:170e2
- 予算区分:委託プロ(その他)
- 研究期間:2009~2014年度
- 研究担当者:梁瀬徹、白藤浩明、加藤友子、堀脇浩孝、山川睦、早山陽子、筒井俊之、寺田裕
- 発表論文等:1)梁瀬ら(2014)応動昆、58(2):127-132
2)農研機構(2014)「光を利用した害虫防除のための手引き」 (2014年7月1日)