欧州型豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス遺伝子検出法の開発

要約

開発した欧州型豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)の遺伝子を特異的に検出するリアルタイムRT-PCRによる検査法は、国内浸潤状況調査や農場のウイルス動態の調査に有用である。

  • キーワード:欧州型、豚繁殖・呼吸障害症候群、PRRS、ウイルス、豚
  • 担当:家畜疾病防除・ウイルス感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)は、豚に感染すると母豚に流死産、子豚に肺炎などの呼吸器障害を引き起こす。PRRSVは、その遺伝子配列の特徴から北米型と欧州型の二種類に大別され、これまで我が国には北米型のみが浸潤していると考えられてきたため、欧州型PRRSVについては検査が実施されていなかった。しかし、2008年に採材された病豚の肺から初めて欧州型のPRRSVが確認されたことから、日本国内の欧州型PRRSVの浸潤状況を新たに調査する必要がある。そこで、欧州型PRRSVの遺伝子を特異的に検出するリアルタイムRT-PCR法を開発し、国内疫学調査および発生農場の遡り調査を実施することにより、欧州型PRRSVの国内浸潤状況および浸潤農場における感染拡大様式等を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 開発したリアルタイムRT-PCR法は、従来の方法(RT-PCR、nested PCR)に比較して検出感度や特異性において優れていることに加え、試験に要する時間を約6時間から約2時間程度と従来の1/3に短縮できる(図1)。したがって、多検体の遺伝子検査を実施する際、本法は非常に有用である。
  • 開発したリアルタイムRT-PCR法を用い、平成20~22年度にかけて12県に所在する74農場から採材した2,052血清検体を対象に本法による遺伝子検査を実施したところ、陽性検体は確認されていないことから、欧州型PRRSVの我が国における感染例は限定的であると考えられる。
  • 欧州型PRRSVが検出された農場から過去に採材された血清検体を対象にリアルタイムRT-PCRを実施したところ、2008年1月には全く検出されていないが、同年9月には若齢の個体を中心に流行が認められ、2011年1月には再び検出されていない(表1)。以上のことから、本ウイルスの農場内における伝播は短時間かつ広範囲に起こっていたと推察された。今回得られたウイルスの農場内の動態に関する情報は、今後の当疾病の防疫対応を講じる上で非常に有用である。

成果の活用面・留意点

  • 全国で病性鑑定に用いられているnested PCR法に比較して高い検出感度と特異性を実現し、さらに検査の簡略化と所要時間の短縮に成功したことから、本検査法は国内の浸潤状況が十分に明らかにされていない欧州型PRRSVの摘発に大きく貢献することが期待される。
  • 欧州型PRRSVが農場に侵入すると、豚群内に感染が速やかに拡大することが予想される。臨床症状からPRRSが疑われる場合には、急速な感染伝播を防ぐために本法によって迅速な検査を行うことが極めて重要である。

具体的データ

図1,表1

その他

  • 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防除技術の確立
  • 中課題整理番号:170a1
  • 予算区分:その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:井関博、高木道浩、黒田淑子、勝田賢、三上修、恒光裕、山川睦
  • 発表論文等:Iseki H. et al. (2014) J. Vet. Med. Sci. 76(10):1411-1413