異なる国から分離されたヨーロッパ腐蛆病菌株の類縁関係

要約

日本を含む世界各国でミツバチ幼虫から分離されるヨーロッパ腐蛆病菌は、遺伝子配列の類似性から大きく3つのグループに分けることができる。同じタイプの株が、異なる国やミツバチ種から分離されており、養蜂生産品の輸出入に伴う病原体の拡散が示唆される。

  • キーワード:ミツバチ、ヨーロッパ腐蛆病、Melissococcus plutonius、MLST
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius)はミツバチの家畜伝染病であるヨーロッパ腐蛆病の原因菌である。本菌は、世界各国でヨーロッパ腐蛆病の症状を呈したミツバチ幼虫から分離されており、我が国では、セイヨウミツバチだけでなくニホンミツバチからも分離される。しかし、異なる国やミツバチ種から分離された菌株間の関係については十分な解析がされていない。そこで、ヨーロッパ腐蛆病の疫学と原因菌の生態の全体像を理解する一助とするため、4つの遺伝子(argEgalKgbpBpurR)の塩基配列を基に菌株の遺伝学的類縁関係を推定できるMultilocus Sequence Typing (MLST)法を用いて、日本で分離された85株のヨーロッパ腐蛆病菌株の型別を行う。さらに、データベースに登録されている海外の株の型別結果と合わせて解析することにより、これら菌株の類縁関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 日本を含む15カ国で分離された計352株のヨーロッパ腐蛆病菌株は、27種類の塩基配列型(Sequence Type;ST)に型別される(表1)。
  • 27種類のSTは、大きく3つのグループ(CC3、CC12、CC13)に分けられ、日本ではCC3に属するST3(24株)、CC12に属するST12(52株)、ST25(1株)およびST27(4株)、CC13に属するST4(1株)およびST26(3株)の計6種類の塩基配列型が確認されている。我が国では、ST3とST12の株の分離頻度が高く、セイヨウミツバチとニホンミツバチの両種から分離される(表1)。
  • ST3の株が国際的に最も広く浸潤しており、これまで8カ国(日本、イギリス、フランス、イタリア、パラグアイ、アイルランド、オランダ、アメリカ)で分離されている(表1)。
  • 型別を行った日本分離株のうち、発育に培地へのカリウム塩添加が必要である典型株は全てCC3またはCC13に属し、カリウム塩添加を必要としない非典型株は全てCC12に属する。我が国で最初に発見された非典型株に遺伝的に近縁な株は、イギリス、アメリカ、オランダ、ブラジルにも存在する。しかし、これら海外分離株が非典型株に特徴的な性状を示すか否かについては確認されていない。

成果の活用面・留意点

  • 異なる国やミツバチ種から同じ塩基配列型の株が分離されていることから、養蜂生産品の輸出入に伴う病原体の侵入やミツバチ種間での病原体の伝播がヨーロッパ腐蛆病菌の拡散に寄与してきたと考えられる。
  • ヨーロッパ腐蛆病菌は、セイヨウミツバチやニホンミツバチを含むトウヨウミツバチに加え、これまでにヒマラヤオオミツバチからも分離されている。しかし、どのミツバチ種を起源として広がっていったのかについては、現在のデータだけでは推測できない。
  • 異なるグループに属するヨーロッパ腐蛆病菌株は病原性も異なる可能性があることが、イギリスで行われた調査報告の中で指摘されている。従って、今後、より有効なヨーロッパ腐蛆病の防除法を立案していくためには、分離株の型別データおよび臨床情報の継続した蓄積と各グループの株の特性の詳細な解析が必要となる。

具体的データ

表1

その他

  • 中課題名:細菌?寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断?防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:髙松大輔、森西恵子(香川県)、荒井理恵(埼玉県)、大澤綾(長野県)、大倉正稔、大﨑慎人
  • 発表論文等:Takamatsu D. et al. (2014) Vet. Microbiol. 171(1-2):221-226