既存の遺伝子型別法では判定不能な豚胸膜肺炎菌血清型6

要約

豚胸膜肺炎菌血清型3、6及び8間で、血清学的交差反応が頻繁に認められるため、補完・代替法として遺伝子を利用した型別法が開発されているが、この方法では判定不能な血清型6を世界で初めて分離し、型別不能の理由が明らかとなる。

  • キーワード:豚胸膜肺炎菌、マルチプレックスPCR、血清型6、非典型株
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚胸膜肺炎菌(Actinobacillus pleuropneumoniae)の血清型3、6及び8間では、凝集反応等の血清型別用の簡易検査法では血清学的交差反応が頻繁に認められ、さらに血清型別用抗血清を保有しない検査室も多いために、血清型別法の補完・代替法として遺伝子を利用した型別法(マルチプレックスPCR(mPCR)法)が開発され、広く利用されてきている。しかし、遺伝子を利用した型別法では型別不能となる豚胸膜肺炎菌血清型6(QAS59株及びHYT2株)を世界で初めて分離した。さらに、既存のmPCRによる型別法の改良に資するため、本菌の遺伝子解析を行い、既存のmPCRで型別不能である理由を明らかにした。

成果の内容・特徴

  • QAS59株及びHYT2株ともに簡易検査法である凝集試験では複数の型別用抗血清で凝集するため型別不能であるが、血清学的型別法の確定診断法であるゲル内沈降反応(ゲル沈)で血清型6に型別される(表1)。
  • 次いで遺伝学的手法でも両株が血清型6であるか確認するために、mPCR(Zhou et al. (2008) J. Clin. Microbiol. 46(2): 800-803)を実施すると、両株ともに血清型3及び6でそれぞれ特異的に増幅するサイズのPCR産物が2本増幅され型別不能である(表1及び図1)。
  • 両株はともに、mPCRに使用する血清型6型別用PCRプライマーだけなく、血清型3型別用PCRプライマーが結合可能な塩基配列を保有している(図2)。このために上記のmPCR法では2本のDNAが増幅され、型別不能となる。
  • mPCRの標的遺伝子の一つであるcpxDの塩基配列は、血清型6参考株と最も相同性が高い(97.2%)が、配列にバリエーションが認められる。一方、もう一つの標的遺伝子cpsAの塩基配列(2株同一)は、血清型6参考株(92.9%)よりも、異なる血清型の血清型7(97.3%)や8(96.9%)参考株と相同性が高い。この事からQAS59株及びHYT2株はともに、mPCRのプライマーが結合する標的DNA部分だけでなく、cpsA全体の塩基配列が血清型6参考株とは異なる。したがって、血清型6には2種類の遺伝子型が存在すると言える。

成果の活用面・留意点

  • 上記のmPCRでは型別不能である血清型6が存在するが、型別不能の理由が明らかとなったため、既存のmPCRで血清型3及び6でそれぞれ特異的に増幅するサイズのPCR産物が2本増幅される株は、本菌と同様の遺伝子をもつ血清型6であると推測できる。
  • 上記のmPCRは、血清型6のサブタイピング法としても活用可能である。
  • 血清型3型別用PCRプライマーが、血清型6のDNAにも結合することが明らかになったため、PCRプライマーの配列の再設計を行い、新規のmPCRを開発する必要がある。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2011~2013年度
  • 研究担当者:伊藤博哉、葛城粛仁(福井県)、赤間俊輔(栃木県)、湯澤裕史(栃木県)
  • 発表論文等:Ito H. et al. (2014) J. Vet. Med. Sci. 76(4):601-604