高病原性鳥インフルエンザウイルスの病原性に関与するPB1のアミノ酸置換

要約

インフルエンザウイルスの8つの遺伝子分節の一つが規定するPB1タンパク質における14番目と38番目のアミノ酸置換はそれぞれ高病原性鳥インフルエンザウイルスの鶏間での伝播性と病原性に影響を与える。

  • キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス、病原性、伝播性、ポリメラーゼ活性
  • 担当:家畜疾病防除・インフルエンザ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)の鶏に対する病原性に、ウイルスの赤血球凝集素(HA)タンパク質が関与していることはよく知られている。しかしながら、その他のウイルスタンパク質の鶏への病原性への関与について検討された研究は少ない。
本研究は、2004年以降これまでにない規模で世界的な流行を引き起こしているH5亜型HPAIVが、なぜこのような大流行を引き起こすに至ったかをウイルスタンパク質におけるアミノ酸置換から解明することを目的としている。
本研究では、HPAIVのHA遺伝子を持ち、病原性を持たない鳥インフルエンザウイルス(AIV)に由来する内部遺伝子とH5N1亜型HPAIVの内部遺伝子と遺伝的な由来を同じくするAIVの内部遺伝子の組み合わせを持つ人工ウイルスと、そのPB1遺伝子にアミノ酸置換を導入した人工ウイルスを作出し、ウイルスの病原性、伝播性へのアミノ酸置換の影響を鶏を用いた感染実験やin vitroのポリメラーゼ活性測定等を用いて検証する。

成果の内容・特徴

  • 病原性を持たないAIVであるWB株の8本の遺伝子分節の一つが規定するPB1タンパク質の38番目のアミノ酸をシステイン(C)からチロシン(Y)に置換させることによって(C38Y)、ポリメラーゼ活性が5倍に上昇する(図1左)。一方で、LP株にY38C置換を導入すると、ポリメラーゼ活性が低下する(図1右)。
  • H5N1亜型HPAIVの内部遺伝子と遺伝的な由来を同じくするAIVであるLP株のPB1タンパク質の14番目のアミノ酸をバリン(V)からアラニン(A)に置換させることによって(V14A)、ポリメラーゼ活性が1/5に低下する(図1右)。
  • ウイルス内部遺伝子のうち、PB1のみをWB株に由来し、その他の内部遺伝子がLP株に由来する組換えウイルスは、HPAIV由来のHAタンパク質を持っているにもかかわらず鶏に対する致死率は50%である。このウイルスのPB1にC38Yを導入することによって、野生型のHPAIVと同等の病原性に回復する(図2)。
  • 全ての内部遺伝子がLP株に由来する組換えウイルスでは、ウイルスを接種した鶏から同居鶏への同居感染が成立するが、このウイルスのPB1遺伝子にV14A置換を導入すると、同居感染が成立しなくなる。
  • 14番目のアミノ酸がバリンであるH5N1亜型インフルエンザウイルスは、同亜型のHPAIVが世界的に大流行を見せる2004年に先立ち、2002年以降急増している(図3)。このことから、このアミノ酸置換がウイルスの流行に寄与した可能性が考えられる。

成果の活用面・留意点

  • アミノ酸レベルでのHPAIVの病原性解析が進むことは、新たに出現するHPAIVの病原性推定に?がる可能性がある。
  • 一方で、HPAIVの病原性は、複数の遺伝的な背景の複雑な組み合わせであることを理解する必要がある。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
  • 中課題整理番号:170b1
  • 予算区分:委託プロ(食安動衛)
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:西藤岳彦、鈴木康司、谷川太一朗、前田尚廣、竹前喜洋、内田裕子
  • 発表論文等:Suzuki Y. et al. (2014) J. Virol. 88(19):11130-11139