リバースジェネティックス法による高病原性鳥インフルエンザ弱毒ワクチン株の作製
要約
増殖性が高くバイオセーフティレベル2で取り扱えるH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの抗原性を保持した弱毒ワクチン候補株をリバースジェネティクス法で作製する。この手法は、流行ウイルスに適合するワクチン候補株を迅速に作製可能である。
- キーワード:高病原性鳥インフルエンザ、ワクチン、リバースジェネティクス法、弱毒化
- 担当:家畜疾病防除・インフルエンザ
- 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所インフルエンザ・プリオン病研究センター
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
日本でのH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)感染に対するワクチンの使用は、HPAIが断続的に多発した緊急時に限り認められている。HPAIのワクチンは、強毒型ウイルスをワクチン候補株として使用すると、ワクチン製造用の発育鶏卵を殺し材料であるウイルスが効率的に回収できない。また、ワクチン接種を行なった場合、HPAIVに対する抗体上昇が、ワクチン接種によるものか新たな感染によるものかの区別できず、国内のHPAIVの清浄化を知ることが困難となる。そこで、ワクチン接種と感染による抗体上昇を区別でき、流行株の抗原性と適合し、かつ迅速に大量のワクチン抗原を得る為に、ノイラミニダーゼ(NA)亜型を流行株と異なる型にした弱毒化ワクチン候補株をリバースジェネティクス法にて作製する。さらに、それらの感染防御効果を検証してその手法の有用性を確認すること目的とする。
成果の内容・特徴
- ワクチン株としてHPAIVの病原性を司るH5 亜型赤血球凝集素(HA)タンパク質を弱毒型に改変し、H5N1亜型HPAIVのNA遺伝子分(N1)又はそれとは異なるNA亜型(N3)のリコンビナントウイルスをリバースジェネティクス(RG)法で作製する(図1)。
- RG法で作製したワクチン株は、発育鶏卵で5代継代しても、増殖性及びアミノ酸等の変化は起こらず、遺伝的に安定である。
- H5N1亜型リコンビナントウイルスとNA遺伝子分節が異なるH5N3亜型リコンビナントウイルスでも、ワクチン接種後のHAタンパク質に対する赤血球凝集抑制(HI)抗体価はH5N1亜型のものと変わらない(表1)。また、2種の亜型のワクチン接種後のウイルス感染鶏の生存率やウイルス排泄量にも差が認められないことから(表2)、NA遺伝子分節が異なる場合でも十分なワクチン効果が得られる。
- 接種するワクチン抗原量を5倍多くすると、ワクチン株のHAタンパク質(遺伝子系統分類:A)と抗原性の異なるHAタンパク質を持つウイルス(遺伝子系統分類:B)の感染に対しても鶏の生存率及びウイルス排泄量に関してワクチン効果が認められる(表2)。
- H5N3亜型ワクチン接種鶏からN3亜型に対する抗体検出を行うことで、攻撃感染後にH5N3亜型ワクチン接種とH5N1亜型HPAIV感染を区別できる(表3)。
成果の活用面・留意点
- HPAI発生が続発し緊急ワクチン接種が必要となった際に、短期間に流行ウイルスと同一の抗原性を持つリコンビナント弱毒型ウイルスを作製し、大量にワクチンを生産することが可能である。
- 流行ウイルス株と異なるNA亜型のリコンビナントウイルスをワクチン株とすることで、抗体検出によるワクチン接種鶏のモニタリングが可能である。
具体的データ
その他
- 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
- 中課題整理番号:170b1
- 予算区分:委託プロ(鳥フル)
- 研究期間:2008~2012年度
- 研究担当者:内田裕子、竹前喜洋、西藤岳彦
- 発表論文等:Uchida Y. et al. (2014) J. Vet. Med. Sci. 76(8):1111-1117