パンデミック2009ウイルスの遺伝子を持つブタインフルエンザウイルスの分離

要約

ヒトで世界的大流行をおこしたパンデミック2009ウイルス由来の遺伝子分節を持つブタインフルエンザウイルスを日本の3地域から1株ずつ分離した。これらのウイルス株は、それぞれ日本の豚で独立して遺伝子再集合によって形成されたと考えられる。

  • キーワード:パンデミック2009ウイルス、ブタインフルエンザウイルス、遺伝子再集合、遺伝系統学的解析、血清学的交差性
  • 担当:家畜疾病防除・インフルエンザ
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚は、種々の動物インフルエンザウイルスに感染することから、ヒトと動物の重要な接点となっている。2009年にヒトで新たな型のH1N1亜型インフルエンザウイルス(pdm2009)による世界的大流行がおこり、今では世界の多くの地域でヒトの季節性インフルエンザの原因ウイルスとなっている。2013年に日本で呼吸器症状を示した豚から分離された3株のブタインフルエンザウイルス(SIV)がpdm2009由来の遺伝子分節を持っていたことから、遺伝系統学的解析と血清学的解析により豚やヒトへのリスクを評価した。

成果の内容・特徴

  • 分離されたH1N2亜型2株(A株、B株)のSIV の内部遺伝子はNP遺伝子以外の全ての分節がpdm2009由来のものである(表1)。
  • H3N2亜型1株(C株)のSIVの内部遺伝子は全てpdm2009由来のものである(表1)。
  • 遺伝系統学的解析の結果、これらの3株はそれぞれ独立して、日本の豚の中で、従来から日本の豚で流行・維持されてきたSIVと、ヒトから豚に感染したpdm2009との間の遺伝子再集合により形成されたものである。
  • A株およびB株(H1N2)は、赤血球凝集抑制試験において国産のH1亜型豚ワクチン株であるSw/Kyoto/3/79(H1N1)に対する抗血清との反応性が低い。また、H1N1亜型のヒト季節性インフルエンザウイルスに対する抗血清の一部には反応せず、pdm2009系統のウイルスに対する抗血清に対しても反応性が低い(図1)。
  • C株(H3N2)は、国産のH3N2亜型豚ワクチン株であるSw/Wadayama/5/69(H3N2)に対する抗血清との反応性が低い。また、2004年以降のH3N2亜型ヒト季節性インフルエンザウイルスに対する抗血清においても反応性が低い(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 国内の豚は、従来から日本の豚集団の中で維持されてきたSIVと、ヒトから豚に感染したインフルエンザウイルス間での遺伝子再集合の場となっている。
  • 今回分離されたSIVはいずれも豚ワクチン株に対する血清学的交差性が低いため、ワクチン効果についての精査が必要である。
  • pdm2009の内部遺伝子をもち、かつ、ヒトでの流行株との血清学的交差性の低いウイルスが豚で循環していることは、公衆衛生学的観点からも注意が必要である。

具体的データ

図1~2,表1

その他

  • 中課題名:インフルエンザの新たな監視・防除技術の開発
  • 中課題整理番号:170b1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2013~2014年度
  • 研究担当者:金平克史、竹前喜洋、内田裕子、彦野弘一、西藤岳彦
  • 発表論文等:Kanehira K. et al. (2014) Microbiol. Immunol. 58(6):327-341