マウスGT1-7細胞は長潜伏期の野外スクレイピープリオン株に感受性を示す

要約

日本で摘発されたスクレイピー症例からは野生型マウスへの伝達試験により、潜伏期の短いスクレイピープリオン株と長いスクレイピープリオン株が分離される。GT1-7細胞は潜伏期の長いプリオン株に高感受性を示し、プリオンを効率的に増幅する。

  • キーワード:プリオン、スクレイピー、培養細胞、伝達試験、プリオン株の分類
  • 担当:家畜疾病防除・プリオン病
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ヒツジ・ヤギのプリオン病であるスクレイピーは、異常プリオン蛋白質(PrPSc)が蓄積する致死的な神経変性疾患であり、野生型マウスに伝達した際の生物学的性状の差に基づき多数のプリオン株が分類されている。スクレイピーは人獣共通感染症ではないが、ヨーロッパではBSEの病原体となるプリオンに感染したヤギが摘発されており、野外症例におけるスクレイピープリオンの分類は重要である。本研究では、日本で摘発されたスクレイピー症例を野生型マウスおよび培養細胞へ伝達し、それぞれのプリオンの性状を解析する。

成果の内容・特徴

  • 我が国で摘発されたスクレイピー発症ヒツジの脳乳剤を野生型マウスに接種し、マウスでの継代を繰り返すことにより、生物学的性状の異なる2つのスクレイピープリオン株が分離される。一方は潜伏期間が280日前後に収束する株(長期株)で、他方は潜伏期間が150日前後に収束する株(短期株)である。
  • 野外症例から分離したスクレイピープリオン(短期株:7株、長期株:3株)をマウス線維芽細胞L929およびマウス神経細胞GT1-7に接種し、7回継代後に細胞内のPrPSc蓄積の有無を調べた。L929ではすべてのスクレイピープリオンでPrPScの蓄積が確認されるが(図1a)、GT1-7では長期株のみで選択的にPrPScの蓄積が認められる(図1b)。

成果の活用面・留意点

  • スクレイピー野外発症例におけるスクレイピープリオンの分類は、我が国に発生しているスクレイピーの現状を把握する上で重要な情報となる。
  • 特定のスクレイピープリオン株のみに感受性を示す培養細胞は、脳内に複数のスクレイピープリオン株が共存する場合に、特定のプリオン株を簡便に分離・精製する手法として応用できる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE 等のプリオン病の清浄化技術の開発
  • 中課題整理番号:170b2
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:宮澤光太郎、岡田洋之、岩丸祥史、舛甚賢太郎、横山隆
  • 発表論文等:Miyazawa K. et al. (2014) Prion 8:306-313