無血清サプリメントKSRは豚体外生産胚盤胞の発生を促進する

要約

無血清サプリメントであるKSRを培地に添加して豚胚盤胞を培養すると、体外生産胚の透明帯からの脱出能が向上し、胚発生が促進する。KSRは胚のエネルギー生産を高め、透明帯脱出に関連する遺伝子の発現を増加させる作用がある。

  • キーワード:血清代替物、体外培養、透明帯脱出、エネルギー産生、胚移植
  • 担当:家畜疾病防除・病態監視技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

子宮深部注入カテーテルを用いて、豚体外生産胚をレシピエント母豚の子宮へ非外科的に移植する技術を開発し、34%の受胎率、22%の分娩率および平均4.1頭の産子を得ている。しかし、胚移植技術を豚の生産現場において実用化するためには、受胎成績の向上が必要である。そこで移植胚の品質向上のため、KnockOutTM Serum Replacement(KSR)に着目し、体外生産胚の発生促進効果について調べるとともに非外科的移植におけるKSRの効果を検討する。

成果の内容・特徴

  • KSR は、未分化胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞の培養および増殖に必要な特定の成分で構成される血清不含の無血清サプリメントである。
  • 体外生産した豚胚盤胞をKSR添加培地で培養すると、胚盤胞の透明帯からの脱出能が向上する(図1)。すなわち、体外受精後5日目以降に0~10%KSRを添加した豚後期胚培養用培地(PBM)で胚盤胞を培養した場合、体外受精後7日目の透明帯脱出率は、1~10%KSR添加区で無添加区に比べ有意に高く、5%KSR添加区の透明帯脱出胚盤胞の細胞数の総細胞数は、無添加および10%KSR添加区に比べ有意に多い(図2)。
  • 5%KSR添加PBMで体外受精後5日目から6日目まで培養した胚盤胞の栄養外胚葉細胞数および総細胞数は無添加区に比べ有意に多い。
  • 胚盤胞のATP含量は体外受精後5日目から7日目にかけて増加し、KSR添加PBMで7日目まで培養した胚盤胞のATP含量は、無添加に比べ有意に高く、体外発生培地へのKSR添加は、胚のエネルギー生産を増加させる(図3)。
  • 体外受精後6および7日目の胚盤胞における脂質代謝関連因子であるカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)およびウロキナーゼ型プラスミノ―ゲンアクチベーター(uPA)のmRNAを定量的PCR法により解析すると、6日目のCPT1および体外受精後7日目のuPAのmRNA量は、KSR添加により無添加に比べ高い値を示し、体外発生培地へのKSR添加は、これらの遺伝子発現を増加させることにより胚の透明帯からの脱出を促進している可能性が示唆される。
  • 非外科的胚移植により生まれた子豚は図4に示す。胚盤胞25個をKSR添加培地で8時間培養した後に、レシピエントに移植した場合、8頭中4頭(50%)が受胎、2頭(25%)が分娩し、計13頭の子豚を得ることができ、受胎成績の向上が期待できる。

成果の活用面・留意点

  • KSR添加培地で培養した胚盤胞の非外科的移植におけるKSRの受胎促進効果については、さらに検討が必要である。
  • KSRは、胚盤胞期以降に培地に添加すると胚発生を促進するが、体外受精直後から添加すると胚盤胞への発生を抑制する作用がある。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:罹病家畜の病態解明と発病監視技術の開発
  • 中課題整理番号:170c1
  • 予算区分:競争的資金(科研費)、競争的資金(Sイノベ)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:吉岡耕治、桜井優広(おち夢クリニック) 、鈴木千恵
  • 発表論文等:Sakurai M. et al. (2015) Theriogenology 印刷中