豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスの浸潤状況と生産成績との関連
要約
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)陽性農場は、陰性農場より離乳後死亡率が高く、平均1日増体量が低い。PRRSV陽性農場の割合は関東地域で東北以北地域よりも高く、また半径3km以内に他の養豚場がある農場群で高い。
- キーワード:ベンチマーキング、PigINFO、PRRS、生産成績、疫学調査
- 担当:家畜疾病防除・動物疾病疫学
- 代表連絡先:電話 029-838-7708(情報広報課)
- 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)はPRRSウイルス(PRRSV)の感染に起因し、世界中の養豚産業に甚大な経済被害をもたらしている豚疾病である。2010年に一貫経営の92農場を調査対象としてPRRSVの浸潤状況を調査するとともに、養豚農場の生産性評価システム(PigINFO)を活用してPRRSV陽性農場と陰性農場の生産指標を比較する。農場の所属地域と半径3km以内の他の農場の有無などの因子とPRRSV陽性との関係を解析する。得られた結果より、PRRSV感染による養豚場の生産性への影響を検討し、さらにPRRSV感染に関わる因子を検討する。
成果の内容・特徴
- 調査対象農場におけるPRRSV の浸潤状況を市販の抗体検出ELISA 法および抗原検出PCR 法で調査した結果、PRRSV 陽性農場(PRRS のELISA 抗体陽性豚またはPCR 陽性豚が存在する農場)の割合は82.6%(76/92)で、陽性農場は陰性農場(ELISA 抗体陽性豚もPCR 陽性豚も存在しない農場)に比べて離乳後死亡率と出荷日齢が高く、平均1日増体量が低かった(表1)。飼育規模を表す項目である常時母豚数を、大規模(451頭以上)30件、中規模(226~450頭)31件、小規模(225頭以下)31件で分けて比較したところ、それぞれのPRRSV陽性率は83.3%、93.5%、71.0%であった(P=0.06)。
- PRRSV陽性農場の割合は、関東地域が東北以北地域より有意に高く、周辺半径3km 以内に他養豚場がある農場で有意に高かった(表2)。
成果の活用面・留意点
- 離乳後死亡率の上昇や増体重の減少などにより、PRRSV陽性農場は陰性農場に比べて経済的な損失が大きいことから、PRRSVの侵入防止や清浄化対策の実施が重要である。
- 養豚農場が多い地域ではPRRSV陽性農場の割合が高いと推測されることから、個々の農場単位でのワクチネーションや農場防疫の強化などに加えて、地域での防疫の検討と強化など他の生産者や獣医師と協力して地域一体としてのPRRSV対策に取り組む事が重要である。
- PigINFOを活用することにより、農場の各生産指標の推移の把握が可能となり、生産指標の改善を通して収益の向上を図ることが可能になる。
具体的データ
その他
- 中課題名:家畜重要疾病の疫学解析及び監視技術の高度化による動物疾病対策の確立
- 中課題整理番号:170d3
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2011~2014年度
- 研究担当者:山根逸郎、山崎尚則、石関紗代子(サミットベテリナリーサービス)
- 発表論文等:
1) 山根、山崎(2012)職務作成プログラム「PigINFOアナリシス」、機構-J02
2) Yamane I. et al. (2013) J. Vet. Epidemiol. 17(1): 44-51
3) 石関ら(2014)日畜会報、85(2):171-177