豚胸膜肺炎菌血清型1、2、5、7及び15の型別用マルチプレックスPCRの開発

要約

莢膜合成遺伝子を標的にしたマルチプレックスPCRにより、豚胸膜肺炎菌の日本における重要な血清型1、2、5、7及び15を簡便かつ正確に型別できる。

  • キーワード:豚胸膜肺炎菌、型別、マルチプレックスPCR、血清型1、2、5、7及び15、莢膜合成遺伝子
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・動物疾病対策センター
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

豚胸膜肺炎菌(学名:Actinobacillus pleuropneumoniae。以下Appと略す)を原因菌とする豚胸膜肺炎による豚の死亡率は高く、また死亡せずに慢性経過をたどった場合にも、飼料効率の低下等により養豚業に多大な経済的損失を与える。そのため豚胸膜肺炎は豚の最も重要な呼吸器疾病の一つとして知られている。Appは、主に菌体表層の莢膜の抗原性に基づき15の血清型に型別され、国、地域及び農場によって流行している血清型は異なり、日本で分離される血清型は、血清型1、2、5、7および15が全分離株の98%以上を占める(図1)。病原性の強さは血清型間で異なり、異なる血清型のワクチンを接種しても効果が期待できず、さらに近年日本でも分離頻度が多くなっている血清型15に対して効果・効能をもつワクチンは開発されていない(図1)。したがって、本菌の血清型別は重要な検査項目である(図1)。しかし、型別用抗血清は市販されておらず、血清型間で交差反応がしばしば認められることから、正確な型別は困難な現状である(図1)。そこで、日本における主要な血清型である血清型1、2、5、7及び15を簡便かつ正確に型別できるマルチプレックスPCR(mPCR)の開発を行う。

成果の内容・特徴

  • App参考株(血清型1~15)を用いて上記mPCRを実施すると、血清型1、2、5、7及び15の参考株からはそれぞれ約0.75 kb、0.5 kb、1.1 kb、0.4 kb及び0.2 kbのDNAが増幅されるが、他の血清型参考株からはDNAは増幅されないため(図2)、血清型1、2、5、7および15であれば血清型別ができる。
  • mPCRの特異性検討のために日本及びカナダで分離されたApp血清型1(n=15)、2(n=15)、5(n=15)、7(n=13)、8(n=3)、10(n=2)、12(n=3)及び15(n=12)の野外分離株を用いて上記mPCRに供試すると、血清型1、2、5、7及び15の野外分離株からはそれぞれ上記の参考株で増幅するサイズのDNAが増幅されるが、血清型8、10及び12の野外分離株からは、上記のサイズのDNAは増幅されない。したがって今回開発した莢膜合成遺伝子を標的にしたmPCR によって、App血清型1、2、5、7および15の野外分離株でも簡便かつ正確に血清型別できる。
  • 供試したAppの全株(n=93)から0.95 kbのApp特異的DNAが増幅される。したがって、型別と同時にAppであるか確認できる(図2)。
  • Jpn. Agr. Res. Quart.に発表した論文に記載された反応条件でmPCRを実施する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:47都道府県の家畜保健衛生所及び食肉衛生検査所等の検査機関ならびに国の検査機関の職員。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:北米では血清型1、5及び7、欧州では血清型2及び豪州では血清型15が主要かつ重要な血清型であるため、国内外で普及。

具体的データ

図1~図2

(伊藤博哉)

その他

  • 中課題名:中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:伊藤博哉、末吉益雄(宮崎大)
  • 発表論文等:1)Ito H. and Sueyoshi M. (2015) Jpn. Agr. Res. Quart. 49(3):277-280
    2)Ito H. and Sueyoshi M. (2015) J. Vet. Med. Sci. 77(4):483-486