放牧衛生検査等で利用できる簡易貧血測定装置の開発

要約

血液を採血管のまま測定出来る近赤外測定装置を開発し、操作・解析用PC、小型リチウムイオン電池を組み合わせて携帯型貧血測定機器とすることで、放牧衛生検査において迅速で簡便に貧血牛の発見が可能になる。

  • キーワード:牛、放牧衛生、ピロプラズマ病、貧血、近赤外測定
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

牛の小型ピロプラズマ病は重要な放牧病であり、早期発見を目的に定期的な衛生検査が実施される。検査では本病の主症状である赤血球への原虫寄生による貧血を対象にヘマトクリット値測定が行われているが、血液の移し換えや遠心分離などの手間が必要で時間を要する。さらに、山間地に位置することの多い放牧場では検査機器の搬入や電源確保が困難な場合には、測定を現場から離れた事務所等で実施するため検査結果を得るまでに時間を要し、速やかな治療・処置の開始が困難になる。以上のことから、携帯が可能で衛生検査現場において使用可能な簡易貧血測定装置の開発により、これまで困難であった現場での迅速な貧血牛の発見を可能とし、速やかな治療、処置へとつなげる。

成果の内容・特徴

  • 近赤外分光器を主とする本体、操作・解析用タブレットPC、小型リチウムイオン電池から構成される簡易貧血測定装置は、本体重量は4.8kg、縦、横、高さがそれぞれ180×270×240mmと軽量、小型であることから携帯が容易である(図1)。連続使用可能時間は約5時間で、100頭程度の放牧衛生検査では追充電することなく使用可能である。
  • 測定可能な血液成分はヘマトクリット値、ヘモグロビン濃度、赤血球数、平均赤血球容積(MCV)である。各成分の検量モデル評価によるRMSEP(標準誤差)は順に0.72%(図2)、0.29g/dl、65万個/μl、6.4flである。
  • 測定時間は1サンプルあたり約30秒であり、手順はPCディスプレー上の表示および音声によってガイドされるため、現場での使用が容易である。データはPC内のデータベースに牧場名や個体番号などとともに自動保存され、過去データとの比較も数値、グラフにより簡単に行うことができる(図3)。
  • 山梨県、茨城県の公共牧場の衛生検査において、本装置の使用によって、検査時間と労力を大幅に短縮できることが確認されている(図4)。本測定装置により、検査現場で直ちに貧血牛の発見が可能となるため、検査に続く迅速な処置が可能となり、損耗防止につながる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:全国の家畜保健衛生所(全国170カ所。うち放牧衛生検査を実施している衛生所は半数程度の見込み)、臨床獣医師(家畜共済による診療所は全国280カ所)。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:牛の放牧場があり、放牧衛生検査を実施している地域。臨床獣医師が使用する場合は、牛が飼育されている地域。
  • その他:採血したその場で貧血牛の発見が可能となるため、検査時間・労力ともに概ね50%以下となる。従来の検査法に必要な器具、消耗品が不要となり、経費節減につながる。本装置は貧血のみならず下痢症での脱水程度把握等にも応用可能である。

具体的データ

図1~図4

その他

  • 中課題名:中課題名:細菌・寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断・防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2014~2015年度
  • 研究担当者:寺田裕、池羽田晶文、指田邦夫(相馬光学)、朴善姫(相馬光学)、大倉力(相馬光学)
  • 発表論文等:Ikehata A. et al. (2014) J. Near Infrared Spectrosc. 22(1):11-17