安全で効果の高い豚丹毒生ワクチン候補株

要約

豚丹毒菌強毒株の染色体からCDP−グリセロールグリセロリン酸転移酵素遺伝子を欠損させた変異株は、無菌豚に接種しても病気を起こすことができないほど弱毒化するが、豚に対して強い免疫を誘導することができる。

  • キーワード:豚丹毒菌、病原遺伝子、生ワクチン
  • 担当:家畜疾病防除・先端的疾病防除技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)はグラム陽性の病原細菌で、豚に急性の敗血症や亜急性の蕁麻疹、慢性の関節炎や心内膜炎を引き起こす。本菌は、豚に強い細胞性免疫を誘導できる性質を有することから、この菌の病原性を制御することができれば、安全で効果の高い生ワクチンばかりでなく、異種微生物の防御抗原を発現させた多価ベクターワクチンの開発が可能になる。そこで本研究では、本菌のゲノム解析を基に病原遺伝子を特定し、その遺伝子を欠損することで安全でワクチン効果に優れたワクチン候補株を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本候補株は、人為的に突然変異を誘発した網羅的な遺伝子変異株ライブラリーのスクリーニングにより特定された病原遺伝子に変異を有するもので、強毒株Fujisawa株に由来する。具体的には、CDP−グリセロールグリセロリン酸転移酵素遺伝子(ERH_0462)を欠損(in-frame deletion)させた変異株(以下、Δ432株)である。
  • Δ432株は、1)豚丹毒菌に感受性が高い無菌豚に皮内接種しても豚に症状を起こさない(表1)、2)ミルクと混合して3日間豚に経口投与することで、現行の生ワクチン株と同様に血中抗体価を上昇させる(表2)、3)現行生ワクチン株に比べて扁桃での解剖時菌数が少なく、豚体内での増殖能が低下している、という特徴を持つ。
  • 以上のことから、Δ432株は免疫誘導効果に優れた安全な生ワクチン候補株である。

普及のための参考情報

  • 普及対象:製薬企業
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:国内外
  • その他:ERH_0432 遺伝子は豚丹毒菌に広く保存されているため、この遺伝子を不活化させることで豚丹毒菌の強毒株を親株として生ワクチン候補株を作製することが可能になると考えられる。

具体的データ

表1~表2

その他

  • 中課題名:先端技術を利用した新しい疾病防除技術の確立
  • 中課題整理番号:170c2
  • 予算区分:委託プロ(生産システム)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:下地善弘、小川洋介、白岩和真、江口正浩
  • 発表論文等:下地ら「CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子欠損豚丹毒菌とその利用」特願2015-169017(平成27年8月28日)