我が国で分離された欧州型豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスの病原性

要約

我が国で初めて分離された欧州型豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスを実験的に子豚に接種したところ、単独の感染では重篤な症状を示さないが、子豚に対して間質性肺炎を引き起こし、感染個体は多量のウイルスを体外に排出する。

  • キーワード:欧州型、豚繁殖・呼吸障害症候群、PRRS、ウイルス、豚
  • 担当:家畜重要疾病・ウイルス感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)は、豚に感染すると母豚に流死産、子豚に肺炎などの呼吸器障害を引き起こす。PRRSVは、その遺伝子の特徴から北米型と欧州型の二種類に大別され、これまで我が国には北米型のみが浸潤していると考えられてきたが、2008年に採材された病豚の肺から初めて欧州型のPRRSVが分離され、遺伝子は2006年に北米で分離されたウイルスと近縁であった。本ウイルスが分離された農場では、ウイルス遺伝子が検出された若齢動物の死亡率が約30%と平常時よりも高かったことから、豚の斃死に分離ウイルスが直接的あるいは間接的に関与した可能性が示唆された。そこで、子豚に分離ウイルスを実験的に感染させ、欧州型PRRSVの特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 子豚に欧州型PRRSVを経鼻接種したところ、血清中では1日後、口腔液中では2日後からウイルス遺伝子が検出され始め、その後実験を終了した21日後まで高いウイルス量が認められている(図1)。すなわち、欧州型PRRSVは暴露後から速やかに豚の体内で増殖し、少なくとも感染から3週間は体外に排出され続ける。
  • ウイルス接種後10日及び21日に豚を解剖し、各種臓器におけるウイルス遺伝子量を計測すると、肺を除く扁桃、脾臓、肝臓、腎臓において21日後では遺伝子量の低下が確認される(図2)。血清中のウイルス遺伝子量は、ウイルス接種後1週間程度をピークとしてその後減少していることと合わせて考察すると、感染から21日後には回復傾向にあることが示唆される。
  • ウイルス接種後10日及び21日の肺は、健康豚の肺に比べると退色し腫脹している。病理組織学的には、接種豚には細胞浸潤とII型肺胞上皮細胞の増生により肺胞間質が肥厚した間質性肺炎が認められる。接種豚には臨床症状が認められなかったことから、分離された欧州型PRRSVは、単独の感染によって豚を斃死させるほどではないが、一定の病原性を有していることを示している。

成果の活用面・留意点

  • 宿主体内での迅速なウイルス増殖と少なくとも3週間にわたりウイルス遺伝子が排出されることから、欧州型PRRSVが農場に侵入した場合、豚群内に感染が速やかに拡大することが危惧される。また、我が国では北米型PRRSが頻繁に確認されるが、子豚においては欧州型との間に病変の質的差異が認められなかったことから、病性鑑定で両者を区別するには遺伝子診断法(平成26年度動物衛生研究成果情報「欧州型豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス遺伝子検出法の開発」)を利用する必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防除技術の確立
  • 中課題整理番号:170a1
  • 予算区分:その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:井関博、高木道浩、川嶌健司、芝原友幸、黒田淑子、恒光裕、山川睦
  • 発表論文等:Iseki H. et al. (2015) J. Vet. Med. Sci. 77(12):1663-1666