野鳥におけるトリパラミクソウイルス1型(ニューカッスル病ウイルス)の保有状況
要約
野鳥糞便を用いた2年間にわたるトリパラミクソウイルス1型の保有状況調査は、野鳥におけるニューカッスル病ウイルス病原性株の存在を証明し、家禽に対する適切なワクチネーションが今後も必要であることを示す。
- キーワード:トリパラミクソウイルス1型、水禽、ハト、分子疫学、鶏病原性
- 担当:家畜重要疾病・ウイルス感染症
- 代表連絡先:電話 029-838-7708
- 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
ニューカッスル病はトリパラミクソウイルス1型(ニューカッスル病ウイルス)の病原性株に起因する家禽の疾病である。わが国の家禽における本病発生は、2010年を最後に確認されておらず、2012年に本病の清浄国として国際獣疫事務局(OIE)に報告した。しかし海外では未だに本病の発生が報告されており、また本病の原因ウイルスは家禽のみならず、野鳥からも幅広く分離される。そこで、全国規模の野鳥における本病ウイルスのサーベイランスを実施することによって、わが国の野鳥内における本ウイルスの保有状況を明らかにし、本病の発生リスクを調査する。
成果の内容・特徴
- 2011-13年までに全国各都道府県の協力を得て、661検体(原則として5羽分をプールして1検体とした)の水禽糞便及び1021検体(同様に5羽分をプールして1検体)のハト糞便を収集し、本病ウイルス分離を試みると、水禽糞便から6株、ハト糞便から1株のトリパラミクソウイルス1型が分離される(表)。
- 本ウイルスは遺伝的にClass IとIIに大別され、さらにClass IIは現在Genotype I-XVに細分されることが知られている。F遺伝子領域の塩基配列を決定して、それに基づく分子系統を行った結果、水禽糞便由来6株のうち4株はこれまでわが国でもしばしば分離されているClass II Genotype Iの系統であり、2012年10月および2013年2月に分離されたウイルスは、Class Iに属する。一方、ハト糞便から分離されたウイルスはこれまで知られているハト由来ウイルスの大部分が属するClass II Genotype VIの系統に属し、また海外の分離株に遺伝的に近縁である(図)。
- PCR法によって本病ウイルスの鶏病原性に深く関連しているF蛋白開裂部位の113番目から117番目のアミノ酸配列を推定すると、水禽糞便から分離された6株には塩基性アミノ酸の連続が認められず全て非病原性株の配列を示す。一方、ハト糞便から分離された株には塩基性アミノ酸の連続が存在し、病原性株の配列を示す(表)。
- 分離されたウイルス各株について、OIEが定める国際基準に基づき病原性ウイルスに該当するか検証するため、1日齢ヒナ脳内接種試験(Intra Cerebral Pathogenicity Index:ICPI、その数値が0.7未満は非病原性株、0.7-2.0は病原性株と判定される)の結果、水禽糞便由来の6株は0.0~0.2であり、すべて非病原性株と判定される。一方、ハト糞便由来株はその数値が1.1であることから病原性株と判定される(表)。
成果の活用面・留意点
- わが国は家禽においてはニューカッスル病清浄国であるが、ハトなどの野鳥には病原性ウイルスが存在することが明らかになったことから、家禽に対する適切なワクチネーションが今後も必要であることを示す。
- 野鳥におけるウイルス保有状況を知るためには、継続的な全国的サーベイランスが有用である。
具体的データ
その他
- 中課題名:ウイルス感染症の発症機構の解明と防除技術の確立
- 中課題整理番号:170a1
- 予算区分:交付金、その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
- 研究期間:2011~2014年度
- 研究担当者:真瀬昌司、金平克史
- 発表論文等:
1) Mase M.and Kanehira K. (2015) J.Vet.Med.Sci.77(3):381-385
2) Mase M.and Kanehira K. (2015) J.Vet.Med.Sci.77(8):919-923
3) 真瀬 (2014) 鶏病研究会報、50:13-18
4) 真瀬 (2014) 養鶏の友、634:26-29