ヨーネ病無症状期における排菌の消長と肉芽腫病変好発部位

要約

無症状期におけるヨーネ病の診断効率は、糞便中の菌特異遺伝子検出、回腸末端部の絨毛先端部粘膜固有層とパイエル板リンパ濾胞間上部の粘膜筋板下ならびに腸間膜リンパ節の皮質リンパ濾胞辺縁洞と傍皮質域における肉芽腫病変検出によって上昇する。

  • キーワード:ヨーネ菌、実験感染、早期診断、糞便中排菌、肉芽腫好発部位
  • 担当:家畜疾病防除・細菌・寄生虫感染症
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・細菌・寄生虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

牛のヨーネ病は、ヨーネ菌感染後に数年にわたる長い無症状期を経て、妊娠や出産などのストレスから肉芽腫性腸炎を起こして下痢や削痩の症状を特徴とする疾病である。本病撲滅のためには発症牛だけでなく、発症牛の子や同居牛など感染の可能性が高い無症状の牛(ハイリスク牛)の早期診断が重要であるが、無症状期の病変形成および菌増殖・排菌の時期や増殖部位については不明な点が多い。そこで蔓延防止と伝播把握を目的に自主淘汰されたハイリスク牛の効率のよい正確な診断の一助とするためにヨーネ菌感染実験を行い、無症状期における糞便中の排菌量の推移や肉芽腫好発部位を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 実験感染牛全6頭ともに臨床症状は認められず、糞便検査ではヨーネ菌接種後6?8週から菌特異遺伝子が検出され、菌接種後30週まで観察した3頭では接種22週後までに陽性と判定される遺伝子量0.001pg/2.5μlを断続的に超えるが、接種28週後以降では全検体から菌遺伝子が検出されず、無症状無排菌期へ移行した可能性がある(図1)。
  • 動物衛生研究所が作製したヨーネ病検査マニュアル*で指定する回腸末端部の採材指定4カ所(回末10cm、30cm、50cmおよび1m)と回盲部リンパ節の遺伝子検査により、菌接種後16週で3頭とも高率に陽性となる(図2)。一方、剖検時に糞便中から菌遺伝子が検出されなくなった接種30週後の3頭では、菌培養と遺伝子検査が陽性となる部位が腸間膜リンパ節の回腸下部、中部および空腸下部のみで、これらの部位の採材・検査が遺伝子診断において重要である。
    *URL:http://www.naro.affrc.go.jp/niah/disease/files/NIAH_yone_kensahou_141017.pdf
  • 菌接種後16週の回腸末端部では絨毛先端部の粘膜固有層にマクロファージやリンパ球の著明な浸潤と類上皮細胞(図3A)や菌増殖を伴う多核巨細胞(図3B)が出現し、回腸パイエル板のリンパ濾胞間上部で粘膜筋板下の領域にも菌増殖を伴う類上皮細胞肉芽腫形成(図4)が3頭ともに認められる。また、回盲部リンパ節では菌接種後30週でも皮質リンパ濾胞の辺縁洞や傍皮質に結節状の類上皮細胞肉芽腫を3頭ともに認め、菌増殖を伴う例もあることから、病理組織学的診断ではこれら組織局所の精査が必要である。

成果の活用面・留意点

  • 発症牛のみならず感染早期のために無症状のヨーネ病ハイリスク牛についてもヨーネ病検査マニュアルの採材指定部位を的確に精査することにより、効率良い菌分離や菌特異遺伝子ならびに病変検出が可能となり、ヨーネ病の診断効率が上昇する。
  • 病理組織学的検査を行う際には、採材指定部位の腸管絨毛先端部の粘膜固有層およびパイエル板リンパ濾胞間上部で粘膜筋板下の領域を、腸間膜リンパ節では皮質リンパ濾胞辺縁洞と傍皮質域の観察を行うことによって、効率よくヨーネ病感染牛に特徴的な肉芽腫病変を検出することが可能になる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:細菌•寄生虫感染症成立の分子基盤の解明と診断•防除のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:170a2
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:田中省吾、永田礼子、川治聡子、森康行
  • 発表論文等:田中ら(2016)鹿児島県獣医師会会報; 第56号; P9-12