BSE感染マウスの病態の進行には異なる大きさのPrPScの関与が示唆される

要約

BSEプリオン感染マウスにおいて20,000×g、10分遠心後の感染脳乳剤の上清に残存する比較的小さな異常プリオン蛋白質(PrPSc)凝集体の感染価は高く、遠心により沈殿する大きなPrPSc凝集体は、死に至るまでの生存日数に影響を与える可能性がある。

  • キーワード:BSE、感染性、潜伏期間、PrPSc凝集体、限界希釈法による感染価測定
  • 担当:家畜疾病防除・プリオン病
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・インフルエンザ・プリオン病研究センター
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ウシのプリオン病である牛海綿状脳症(BSE)は、脳内への異常プリオン蛋白質(PrPSc)の蓄積を特徴とし、人を含む様々な動物種に感染する人獣共通感染症である。PrPScはプリオン病を診断する唯一のマーカーであるが、組織におけるPrPSc蓄積量とその感染価は必ずしも一致するとは限らない。プリオン感染動物の脳内では、PrPScは様々な大きさの凝集体として存在し、時にはアミロイドのような巨大な繊維状の塊となる。また、凝集体の大きさによりPrPScの感染性が異なることが報告されている。本研究ではマウスに馴化したBSEプリオンを用い、サイズの異なるPrPSc凝集体がプリオン病の進行過程において果たす役割の違いを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 図中のウェスタンブロットに示すようにBSE感染マウス脳乳剤を20,000×gで10分間遠心した上清には、遠心前の脳乳剤に含まれるPrPScの約0.4~2.0%が残存し、大部分は沈殿する。
  • 図に示すように、PrPSc量が多く、大きな凝集体を含む脳乳剤(図中左側)とPrPSc量が少なく、小さな凝集体のみを含む上清(図中右側)がそれぞれ保持するBSEプリオンの感染価を限界希釈法により定量する。
  • 表に示すように、脳乳剤と上清はほぼ同等の感染性を持つ。上清に含まれるPrPScが脳乳剤中の約0.4~2.0%であることを考慮すると、極微量の小さなPrPSc凝集体が強い感染性を保持していることが示唆される。
  • 表に示すように、上清希釈液を接種したマウスの生存日数は、脳乳剤接種マウスに比べ、平均で約15日間長い。この結果は、遠心により沈殿する比較的大きなPrPSc凝集体がマウスでのBSEの進行を早めていることを示唆している。

成果の活用面・留意点

  • マウス馴化BSEプリオンの感染性は、サンプルに含まれるPrPSc量に単純には比例しない。プリオンの感染性や病原性はPrPScの"量"だけでは決まらず、凝集体の大きさなどのPrPScの"質"による影響を大きく受ける。
  • 感染性の高いPrPSc凝集体や神経細胞毒性の強いPrPSc凝集体の性状を明らかにできれば、プリオン病の感染防止や進行の遅延などに焦点を絞った薬剤開発が可能になると考えられる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:プリオンの異常化機構の解明とBSE等のプリオン病の清浄化技術の開発
  • 中課題整理番号:170b2
  • 予算区分:委託プロ(食の安全・動物衛生プロ)、競争的資金(科研費、厚労科研費)
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:宮澤光太郎、岡田洋之、舛甚賢太郎、岩丸祥史、横山隆
  • 発表論文等:Miyazawa K. et al. (2015) Prion 9(5):394-403