無線体温センサによる牛体表温測定法の開発

要約

新たに開発した、同時に多数の牛から体表温を測定する無線体表温センサおよび装着装置を用いて測定した体表温は、直腸温と高い相関を示すことから、牛における有用な体温測定法になる。

  • キーワード:牛、体温、生体センサ、発熱検知
  • 担当:家畜疾病防除・病態監視技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

子牛疾病防除のためは、もっとも基本的な生理的パラメーターである体温変化を監視し、 牛の異常を早期に発見できる技術が有効である。牛の体温測定は、直腸に温度計を挿入して測定されるが、多頭数の体温を定期的に測定するのは困難である。体温測定センサとしては、これまで体内埋込型センサ、膣内挿入型温度センサ、サーモグラフィーなどを用いた方法が報告されているが、食品安全や感染のリスク、連続測定ができないなど、子牛には不適な点も多い。そこで今回、尾根部裏側の体表温変化を継続的に監視することにより、子牛の健康状態を把握できる無線体表温センサ本体およびセンサ装着方法を開発し、体表温データ処理法について検討した。

成果の内容・特徴

  • 図1に開発した体温センサを示す。大きさは、基盤部分が24mm x 24mm、全長 65mm、重量3.5g(電池込み)で、サーミスタで測定した温度データを、無線送信部からアンテナを介して送信し(周波数900MHz、送信可能距離約20m)、受信機側のパソコン内に蓄積する。送信間隔1分の時、電池寿命は2か月以上である。
  • センサの装着は、面ファスナーを用いたベルトで尾根部に巻き込むことによって行う。サーミスタが尾根部裏側の血管の下に来るように固定することにより、1か月程度、体表温測定が可能である(図2)。
  • 図3に、子牛にセンサを装着して3日間体表温変動を測定した結果を示す。体表温(青線)は36.5°C~38.5°Cの範囲で日内変動を示す。また0.5~1°Cの範囲で15~60 分程度の短期変動も認められるが、その多くは牛の起立(赤矢印)に伴っており、血流量あるいは血圧の変化を反映していると考えられる。そこで短期変動の影響を除去するため、各体表温測定時点の前後30分間の最高温度を、その時点の補正体表温(赤線)とする。
  • センサによる体表温と直腸温との相関を検討したところ、補正値(赤丸)では、体表温生データ(青丸)に比べて相関式の傾きが1に近づき、相関係数も改善される(図4)。以上の結果から、無線体表温度センサによる尾根部体表温測定は、牛における有用な体温測定法になると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 今回開発したセンサを実際に農場で使うためには、無線送信距離の向上、センサ本体の頑強性、防水性などについて検討する必要がある。
  • 体表温は、外気温などの影響を受けることが知られている。農場において疾病早期診断を行うためには、体表温の変動要因の解明と、これを加味した発熱検知のための手法の開発を進める必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:罹病家畜の病態解明と発病監視技術の開発
  • 中課題整理番号:170c1
  • 予算区分:競争的資金(NEDO、SIP)
  • 研究期間:2013~2015年度
  • 研究担当者:宮本亨、新井鐘蔵、野上大史(九州大)、岡田浩尚(産総研)、伊藤寿浩(産総研)
  • 発表論文等:Nogami T.et al. (2014) Sensors and Materials. 26(8):539-545