新しい実験動物マイクロミニピッグを用いた有機フッ素化合物の体内動態

要約

マイクロミニピッグ(MMPigs)に10種の有機フッ素化合物を投与し、体内動態を解析した結果、これらの化合物は豚の組織中に長期に残留すると考えられる。またMMPigsは、安全性評価分野において非常に優れた新規の実験動物となりうる。

  • キーワード:マイクロミニピッグ、実験動物、薬物動態、ペルフルオロ化合物、安全性試験
  • 担当:家畜疾病防除・飼料等安全性確保技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・病態研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

豚は家畜としての豚そのものに対する飼養試験だけでなく、ヒトとの解剖学的、生理学的類似性を利用して、新規薬物の非臨床試験や毒性試験における非げっ歯類実験動物としても広く用いられている。家畜である豚は、希少な動物である霊長類、コンパニオン動物である犬に比してこれらの試験に用いやすい面がある。しかし、豚は大型の動物であるために取り扱いが難しく、投与すべき化学物質の量も多くなるため、排泄物の管理等を含め試験の実施に困難がともなう。本課題では、超小型であるが血液生化学性状等は豚と同等であることが示されている、新しい実験動物であるマイクロミニピッグ(MMPigs)を用いて、残留性有機汚染物質(POPs)であるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を含む10種のペルフルオロアルキル酸類(PFAAs)の豚での体内動態を解析し、安全性評価に資するデータを得るとともに、MMPigsの実験動物としての特性を明らかにしたので紹介する。

成果の内容・特徴

  • MMPigsはこれまでに人の心血管系障害のモデル動物として利用された例があるが、今回の試験はMMPigsをPOPsの安全性評価分野に利用した初めての報告である。試験に供したMMPigsは6?8ヶ月の雌で、体重は9?14kgと極めて小型であり、非常に慣れやすく、給与や採血時も温順で扱いやすい。
  • 給与したPFAAs(PFOSおよび9種のペルフルオロカルボン酸類:PFCAs)を表に示す。各群3頭のMMPigsにカプセルに内包したPFAAs混合物を各3mg/kg体重(一頭あたり約30 mgと少量、対照群には溶媒のみ)を一回経口給与し、経時的に21日後まで血液を採取してPFAAs濃度を液体クロマトグラフタンデム質量分析計により定量すると、血液中のPFAAsの生物学的半減期は1.6から86.6日となる(表)。半減期は長い順にPFOS ≥ PFOA > PFNA > PFUnDA > PFDA > PFHpA > PFDoDA > PFBA > PFHxA > PFPeAである。投与に起因する臨床的、病理学的異常はいずれの動物にも見られていない。
  • 投与21日後に採取した臓器サンプル中のPFAAs濃度定量結果から、肝臓は定量に供した臓器中でPFOSおよび長鎖のPFCAsが最も蓄積しやすい。また、PFOSおよびより長鎖のPFCAs(炭素数9以上)は21日後でも筋肉を含む各組織中に残留する(図)。

成果の活用面・留意点

  • MMPigsは家畜の豚の毒性研究モデルであるとともに、安全性試験全般において霊長類や犬、大型の豚を用いる非げっ歯類試験を代替しうる実験動物となり得る。
  • 体内動態の解析結果から各PFAAsの生物学的半減期が判明するとともにPFAAsが筋肉を含む可食部分に長期に残留する可能性が示唆されたことは、汚染実態を考慮した上で安全性確保のための重要なデータとして活用できる。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:飼料等の家畜飼養環境の安全性確保技術の開発
  • 中課題整理番号:170d1
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:グルゲ キールティ シリ、野口倫子(麻布大)、吉岡耕治、吉岡都、山中典子、生澤充隆、谷村信彦、佐藤真澄(動衛研)、谷保佐知、山崎絵理子、山下信義(産総研)、川口博明(鹿児島大)
  • 発表論文等:Guruge K.S. et al (2016) J. Appl. Toxicol. 36(1):68-75