口蹄疫伝播モデルを用いた感染拡大の評価と効果的な防疫対策の検討

要約

国内の主要な畜産生産地域を対象に、口蹄疫の感染拡大をシミュレーションすると、牛農場と豚農場の密集地域では大規模な流行が起きやすく、早期終息のためには、初発農場の早期摘発やワクチン接種などの追加的な防疫措置の必要性が示唆される。

  • キーワード:口蹄疫、伝播モデル、シミュレーション、家畜の飼養密度、防疫対策
  • 担当:家畜疾病防除・動物疾病疫学
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

口蹄疫の危機管理では、地域における感染の広がりやすさを把握し、これに応じた防疫対策を備えておくことが重要である。口蹄疫は、動物種によって感受性と伝播力が異なるという特徴があることから、地域における家畜の飼養密度や家畜の種類の構成が感染の広がりやすさに影響を与える可能性がある。本研究では、2010年の口蹄疫流行時のデータを基に構築した口蹄疫伝播モデルを用いて、国内の主要な畜産生産地域を対象に感染拡大のシミュレーションを行い、感染拡大の傾向を比較し、効果的な防疫対策について検討する。

成果の内容・特徴

  • 比較の対象地域として、家畜の飼養密度や種類の構成が異なる国内の3地域を選出する(表1)。1)「流行地域」:2010年に発生した口蹄疫の流行地域であり、牛農場と豚農場の飼養密度が高い地域。2)「牛豚地域」:流行地域よりも牛農場と豚農場の飼養密度が高い地域。3)「牛地域」:大規模牛農場が多く、豚農場は少ない地域。
  • 各地域において、移動制限下での感染拡大シミュレーションを口蹄疫伝播モデルを用いて行う。シミュレーションでは、発見時に既に10戸の農場が感染していたと仮定して感染拡大を開始し、感染農場の家畜は摘発後24時間以内に殺処分されることとする。
  • 感染拡大のシミュレーションの結果、牛農場と豚農場の飼養密度が高い「流行地域」と「牛豚地域」では、大規模な感染拡大が起きやすい(表2)。特に、「牛豚地域」では、24時間以内の殺処分では、100日以内に流行が終息する確率が12%と低い。一方、「牛地域」では感染は広がりにくく、24時間以内の殺処分で短期間に流行は終息する。
  • 「牛豚地域」における効果的な防疫措置を検討したところ、感染農場を早期に摘発した場合(感染農場が1戸又は3戸の段階で発見できた場合)、流行を小規模に抑えることができるが、感染農場が3戸の場合は大規模な流行が起こる可能性もある(表3)。
  • 追加的な防疫措置として、摘発農場周辺の予防的殺処分を行った場合、感染戸数は24時間殺処分時の約10%に抑えられるが、殺処分戸数は24時間殺処分時とほぼ同等であるものの(表3)、1日当りの最大殺処分戸数が70戸を超え、24時間殺処分時(30戸)よりも大幅に増加する。また、ワクチン接種を早期に行った場合、感染戸数は24時間殺処分時の約5~20%に抑えられるが、ワクチン接種農場も殺処分の対象に含める場合には、24時間殺処分時よりも殺処分対象戸数が大幅に増加する(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 国と都道府県による口蹄疫対策の検討に有用な知見として提供できる。
  • 本研究では2010年に発生した口蹄疫の流行データから推定した農場間の伝播率を用いているが、異なる型のウイルスによる発生では伝播率が変わる可能性があることに留意する必要がある。また、ワクチンの有効性の検討には時間を要すること、発生したウイルスの型によっては、有効なワクチンがない場合があることに留意する必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:重要疾病の疫学解析及び監視技術の高度化等による動物疾病対策の確立
  • 中課題整理番号:170d3
  • 予算区分:その他外部資金(レギュラトリーサイエンス)
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:早山陽子、山本健久、小林創太、室賀紀彦、筒井俊之
  • 発表論文等:Hayama Y. et al. (2016) J. Vet. Med. Sci. 78(1):13-22