遺伝子内の特徴領域を用いた豚流行性下痢ウイルスの分子疫学解析法の開発

要約

新たにプログラムを開発し解析した結果、2013-2014年に流行した豚流行性下痢ウイルスはゲノムの全長に計8種類の遺伝的特徴領域を共有している。同じ特徴領域を有する株が複数の国から分離されたことから、各国における流行は関連していたと考えられる。

  • キーワード:全ゲノム解析、系統樹解析、豚流行性下痢ウイルス
  • 担当:家畜疾病防除・動物疾病疫学
  • 代表連絡先:電話 029-838-7708
  • 研究所名:動物衛生研究所・ウイルス・疫学研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2013年から2014年にかけて中国、米国、韓国、台湾、カナダ及び日本などで豚流行性下痢(PED)の流行が報告された。従来、遺伝子の情報に基づいてこれらの流行株間の疫学的関連性を検討する際には、遺伝子の類似性に着目する系統樹解析などが用いられてきたが、株間の関連性の客観的指標が乏しいなどの問題がある。このため、特定の株間でのみ排他的に共有されている特徴領域を探索するプログラムを開発し、各国で分離されたPEDウイルス(PEDV)株間の関連性を検証する。

成果の内容・特徴

  • 複数のウイルスの遺伝子について、数百塩基単位で全長に渡って順番に比較し、比較したウイルスの一部にだけ共有されている領域を検出するプログラムを開発した。
  • 2013年から2014年に日本国内で分離されたPEDV36株の分析から得られた遺伝子情報と、データベースに公表されている米国、カナダ、メキシコ、ドイツ及び韓国で分離された83株の遺伝子情報(合計119株)について、開発したプログラムを用いて解析すると、これらのうち61株でM1~M8までの8つの特徴領域が存在する(図1)。
  • それぞれの特徴領域が34~2,032塩基という一定の長さの領域からなっていることから、これらの特徴領域は偶然の変異によって生じたのではなく、それぞれ共通の祖先株に由来するものと考えられる。
  • 特徴領域の解析の結果、系統樹解析で離れた位置に配置された株が同じ特徴領域を保有していることは、この解析手法を用いることで、系統樹解析では把握できなかった株間の関連性を把握できることを示している(図1)。
  • この手法を用いて、各国で分離されたPEDVのゲノムの全長を解析した結果から、系統樹解析では明らかにならなかった点として、ア)M1~M6の6つの特徴領域は2つ以上の国から分離された株で認められたことから、これらの国の流行株は互いに関連していたと考えられること、イ)日本では、M1~3、5、6をそれぞれ別に保有する株が分離されていることから、海外から日本へのPEDVの侵入は複数回あったと考えられることが示された(図1)。

成果の活用面・留意点

特徴領域は、連続的な遺伝子変異ではなく遺伝子組み換えにより生じたと考えられるため、モチーフを用いた遺伝子解析は、こうした現象が起こりうるウイルスについて応用可能である。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:重要疾病の疫学解析及び監視技術の高度化等による動物疾病対策の確立
  • 中課題整理番号:170d3
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015年度
  • 研究担当者:山本健久、鈴木亨、大橋誠一、宮崎綾子、筒井俊之
  • 発表論文等:Yamamoto et al. (2015) PLOS ONE 11(1):e0147994. doi: 10.1371/journal.pone.0147994.