もち性系統「谷系A6599-4」(小麦中間母本農8号)のWx-D1遺伝子上の変異

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

「谷系A6599-4」のもち性の原因はWx-D1遺伝子上の点突然変異によるタンパク質のアミノ酸置換である。ゲノムDNAをテンプレートとしたPCR産物を解析する方法で判定できる。

  • キーワード:小麦、もち性、アミノ酸置換、Wxタンパク質、PCR、dCAPSマーカー
  • 担当:作物研究所・麦類研究部・小麦育種研究室
  • 連絡先:0298-38-7497
  • 区分:作物・冬作物
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

麺の粘弾性の改良による食感の改善を育種目標として、もち性を含む低アミロース品種・系統を育成してきた。アミロースの合成はWxタンパク質が関与しており、低アミロースやもち性小麦にはこのWxタンパク質の遺伝子およびそれを制御する遺伝子の変異があると考えられる。このため、もち性系統谷系A6599-4(小麦中間母本農8号)のアミロース含量変異が何に起因するのかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • もち性系統谷系A6599-4は原系統の谷系A6099(小麦中間母本農7号)と同様にWx-D1タンパク質が発現している(図1)。
  • 谷系A6599-4のWx-D1タンパク質は点突然変異により成熟タンパク質のN末端から258番目のアミノ酸残基のアラニンがスレオニンに置換している(表1)。
  • 片親に谷系A6599-4 をもつ倍加半数体系統およびF5系統を用いた解析の結果、もち性を示した系統はすべてこの変異があり、うるち性にはこの変異はない (表1)。
  • 変異の検出にdCAPS (derived cleaved amplified polymorphic sequence) プライマーを用いた。1回目にWx-D1遺伝子特異的なプライマー、2回目(nested)にdCAPSプライマー(図2)で増幅したPCR産物を解析する方法で簡便に変異型(もち)、野生型(うるち)の判定を行うことができた(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 谷系A6599-4はWx-D1遺伝子のみ発現している。谷系A6599-4と3つのWx遺伝子が発現する系統の交配後代におけるWx-D1座を決めるには、このdCAPSプライマーを用いたマーカーの利用が最も有効である。この際、ヘテロ個体は変異型、野生型両方のバンドが出現する。

具体的データ

図1 Wx-D1タンパク質のSDS-PAGE像

表1  Wx-D1遺伝子の変異と表現型

図2  dCAPSプライマーを用いたPCR

図3 PCR 産物を制限酵素AgeI 処理を行った断片の電気泳動像

その他

  • 研究課題名:小麦のアミロース合成に関わるWxタンパク質の発現機構の解明
  • 予算区分:経常、交付金
  • 研究期間:1998~2000年度
  • 研究担当者:柳沢貴司、乙部千雅子、吉田 久、藤田雅也
  • 発表論文等:Yanagisawa et al. (2001) Euphytica 121:209-214.