イネホスホリパーゼDの発現抑制による過敏感反応の誘導

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要約

イネホスホリパーゼD遺伝子はイネにおける疑似病斑の形成、防御関連遺伝子の発現およびファイトアレキシンの産生を制御し、過敏感反応の誘導に関与している。

  • キーワード:イネ、ホスホリパーゼD、RNA干渉、疑似病斑、防御関連遺伝子
  • 担当:中央農研・稲収量性研究北陸サブチーム
  • 連絡先:電話025-526-3245、電子メールtkyama@affrc.go.jp
  • 区分:作物、関東東海北陸農業・生物工学
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

細胞膜リン脂質の代謝酵素であるホスホリパーゼD(PLD)が、植物の生育や環境応答に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあるが、個々のPLD遺伝子の生理機能についてはまだよくわかっていない。そこでイネのPLD遺伝子のRNA干渉(RNAi)による遺伝子発現抑制系統を作出し、栽培生理試験でその表現型を解析することにより、イネにおけるPLDの生理機能を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イネゲノムデータベース解析の結果、イネには16個のPLD遺伝子の存在が推定され(2007年1月現在)、それぞれのアミノ酸配列解析の結果、図1の系統樹のGene nameに示すような7つのクラス(α,β,δ,ε,ζ,κ,μ)に分類できる。
  • 8つのPLD遺伝子について、それぞれのRNAiによる遺伝子発現抑制系統を形質転換で作出し、栽培生理試験で表現型を解析した結果、OsPLDβ1を抑制した系統の葉身だけに疑似病斑の形成が観察される(図2)。
  • OsPLDβ1-RNAi系統の葉身には、正常株に比べて極めて多量のファイトアレキシンが検出される(図3)
  • OsPLDβ1-RNAi系統の葉身には正常株と比較してProbenazol-inducible protein、Chitinase、Thaumatin-like proteinなどの防御関連遺伝子が強く発現している(図4)。
  • 以上の結果はOsPLDβ1遺伝子が通常状態で不必要な過敏感反応の誘導を抑制していることを示唆する。よってPLDはイネの過敏感反応の誘導に関与している。

成果の活用面・留意点

  • 植物の対微生物防御において最も重要な、過敏感反応の誘導にPLDが関わっていることを、初めて明確にしたもので、耐病性の解明に有効な情報である。
  • 独自に確立したOsPLDβ1-RNAi系統は植物の過敏感反応誘導のメカニズムを解明するための重要な研究素材である。

具体的データ

図1、イネゲノムデータベース解析によるイネPLD遺伝子(2007年1月現在)

図2、OsPLD β1 -RNAi系統の葉身で観察される疑似病斑(播種後7週)

図3、イネの葉身におけるファイトアレキシンの産生(播種後7週)

図4、イネの葉身における防御関連遺伝子の発現解析(播種後7週)

その他

  • 研究課題名:イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
  • 課題ID:221-c
  • 予算区分:基盤研究費、形態生理
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:山口武志、黒田昌治、山川博幹、新屋友規(明治大)、渋谷直人(明治大)