古米臭くなりにくいイネを簡便に選抜するDNAマーカーの開発

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要約

古米臭さの主要な原因であるリポキシゲナーゼ(LOX-3)が欠失したイネを、簡易に選抜できるDNAマーカーを開発した。これにより、古米臭さの発生の少ないイネの早期選抜が簡単な操作でできるようになり、品種育成の効率化が期待される。

  • キーワード:DNAマーカー、古米臭、リポキシゲナーゼ欠失、選抜技術、低コスト貯蔵
  • 担当:作物研・米品質研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8951
  • 区分:作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

古米臭の発生は、過酸化酵素リポキシゲナーゼ(LOX)の働きによる脂質の酸化・分解が主要な原因である。LOX-3は全LOX活性の80%以上を占める主要なアイソザイムであり、LOX-3が欠失した玄米では貯蔵中の古米臭成分の蓄積が少ないことが明らかになっている。しかし、LOX-3欠失系統を育成するために必要な、従来のLOX-3欠失性の検定方法(イムノブロット法)は労力と時間がかかる。そこで、育種現場で容易に行えるより簡便な選抜方法として、苗の葉1枚でLOX-3の有無を判別できるDNAマーカーの開発を試みる。

成果の内容・特徴

  • マイクロサテライトマーカーによる連鎖分析と、精製したLOX-3タンパク質の内部アミノ酸配列の解析より、種子LOX-3タンパク質をコードする遺伝子はOs03g0700400であることが明らかになった。
  • 日本晴のLOX-3遺伝子Os03g0700400においてトリプトファンを指定するコドン「TGG」が、LOX-3欠失米品種Daw Damでは一塩基置換により終止コドン「TGA」へ変異するナンセンス変異となっている(図1)。この結果、Daw DamではLOX-3タンパク質が作られない。
  • 見出した終止コドンへの一塩基置換を利用するDNAマーカー検出方法を用いることにより、LOX-3タンパク質の有無を判別できる。Cleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法を用いれば、一塩基変異を含む領域のPCR産物を制限酵素MvaIで処理することにより、DNAの塩基配列の違いを検出できる(図2a)。一方、ドットブロットSNP法は一塩基の違いを点のシグナルとして判定でき、大量の試料を解析するのに適している(図2b)。

成果の活用面・留意点

  • LOX-3が欠失しているDaw Damの玄米では、貯蔵期間に伴って増大する古米臭成分の蓄積量が、LOX-3を持つコシヒカリやこがねもちの玄米の3~5分の1に減少する。
  • 本DNAマーカーを利用することにより、簡単な操作で古米臭発生の少ないイネ品種の早期選抜ができ、品種育成の効率化が期待される。
  • ドットブロットSNP法による解析には、マルチピンブロッターが必要である。

具体的データ

図1 種子LOX-3遺伝子の構造

図2 LOX-3が欠けているイネの簡易な選抜方法

その他

  • 研究課題名:イネゲノム解析に基づく品質形成生理の解明と育種素材の開発
  • 課題ID:221-d
  • 予算区分:基盤、文科省・科研費
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:鈴木保宏、白澤健太(学術振興会特別研究員)
  • 発表論文等:Shirasawa K. et al. (2008) Breed. Sci. 58(2): 169-176.