高温による花粉発達期の葯での遺伝子発現の低下がイネの不稔を誘発する

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

イネが小胞子期初期に高温ストレスを受けると不稔が誘発される。葯内の主にタペート組織に発現する一群の遺伝子のmRNAレベルが、高温により速やかに低下し、柱頭上に付着・発芽する花粉数が著しく減少することが不稔につながる。

  • キーワード:高温ストレス、遺伝子発現、花粉、不稔
  • 担当:作物研・稲遺伝子技術研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8949
  • 区分:作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

近年地球規模での温暖化が進んでいることから、高温ストレスに関しては、作物の稔実率を低下させるメカニズムの解明と対策が望まれている。関東以西の地域では、2007年8月の気温が平年に比べて非常に高く、水稲の稔実率の低下が観察され、開花期とともに出穂前の高温の影響を受けた可能性が指摘されている。本研究では、イネの高温ストレスに対する応答と不稔現象の分子基盤を明らかにすることを目指し、高温条件下での遺伝子発現と花粉の特性に着目した解析を行う。

成果の内容・特徴

  • イネの生殖過程のさまざまな時期の高温に対する感受性を調べると、減数分裂後の小胞子期が最も影響を受けやすい。小胞子期初期にあたるイネに高温処理(昼39°C/夜30°C)を施すと、再現よく不稔を誘発することができる。2日間の高温処理を行うと、その後常温に戻しても不稔となる(表1)。
  • 高温処理実験の概略を図1に示す。上記の高温処理を2日間、3日間、4日間行った直後の葯(H2,H3,H4)とそれらに対応する時期の無処理の葯(C2,C3,C4)から調製されたRNAを用いて、マイクロアレイの手法により遺伝子発現プロファイルの変化が見いだされる。
  • これまでの実験で同定された13の高温応答性遺伝子のうち、一つの解析例を図2に示す。これらの遺伝子群は、高温処理によって1日以内にmRNAが減少する。
  • これらの高温応答性遺伝子は、小胞子を含むステージの葯に特異的に発現しており、他の器官や他の時期ではほとんど発現が見られない。また、葯内では主にタペート組織に発現する(図2)。
  • 高温処理の後、常温で開花期まで栽培した場合、花粉の形態や数、葯の裂開程度などに大きな影響はみいだされないが、開花期の花粉の柱頭への付着・発芽が低下する(図3)。また、無処理の花粉を高温処理した雌蕊に交配すると花粉管の旺盛な伸長が見られることから、小胞子期のイネに高温処理を施して誘発される不稔は、雄性不稔である(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究の成果は、イネの花粉稔性の維持に必要な遺伝子機能の解明につながる。
  • 本研究では、「日本晴」を用いている。他の品種で解析を行う際には、小胞子期の見極めなどに注意が必要である。

具体的データ

図1 小胞子期イネの高温処理実験の概略

表1 小胞子期初期に高温処理を施した

図2 高温応答性遺伝子の葯における発現様式

図3 高温処理花粉の特性

その他

  • 研究課題名:遺伝子組換え技術の高度化と複合病害抵抗性等有用組換え稲の開発
  • 中課題整理番号:221h
  • 予算区分:基盤、委託プロ(新農業展開ゲノムプロ)、生研センター新技術
  • 研究期間:2005~2009年度
  • 研究担当者:川岸万紀子、遠藤誠、大島正弘、東谷篤志(東北大)、渡辺正夫(東北大)
  • 発表論文等:1) Endo M. et al. (2009) Plant Cell Physiol. 50(11): 1911-1922