大豆出芽時の冠水は早期に細胞壁タンパク質群に障害を与える

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

大豆の出芽時の冠水は根と胚軸の生育を顕著に阻害し、冠水により早期に根の細胞膜および細胞壁のタンパク質群が変動し、特に細胞壁のリグニン合成やリグニン化等に関与するタンパク質群が減少している。

  • キーワード:大豆、湿害、細胞壁、細胞膜、タンパク質
  • 担当:作物研・大豆生理研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8693
  • 区分:作物
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

わが国の水田転換畑における大豆の栽培では、湿害が発生し生産が不安定となるので、耐湿性大豆品種の開発が重要な課題である。そこで、湿害に関連するタンパク質群の情報を提供し、国産大豆の安定的な生産のための基盤研究に貢献する。本研究では、大豆の出芽期の湿害発生時に影響を受けやすい根と胚軸の細胞壁や細胞膜のタンパク質の変動を明らかにすることにより、湿害を抑制するための分子生物学的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 大豆品種「エンレイ」を播種後2日で冠水処理すると、処理0.5日でマトリックスメタロプロテアーゼ等(図1左)、1日でエクスパンシン等(図1右)が顕著に増加している。つまり、冠水処理により細胞壁に局在して細胞外基質を分解する酵素の遺伝子群が一過的に増加し、その後急速に減少する(図1)。
  • 冠水処理1日後に、細胞膜を精製し質量分析計を基にしたプロテオーム技術で解析した結果、非青酸グルコシダーゼ、ペクチンエステラーゼ、セリンC末端切断酵素等、細胞壁の多糖類の加水分解に関与する酵素が顕著に増加している(表1)。
  • 冠水処理2日後に、細胞壁を精製し二次元電気泳動を基にしたプロテオーム技術で解析した結果、銅アミン酸化酵素(スポット3、4)、リポキシゲナーゼ、胚芽様タンパク質(スポット6、7、11、12)、銅亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(スポット8)等が減少している。これらはリグニン合成やリグニン化等に関与していることが報告されているタンパク質群である(図2)。
  • 同時期に、根の木部を蛍光観察した結果、冠水処理でリグニン量が減少していることが明らかである(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究は細胞壁と細胞膜タンパク質に焦点を当てた場合の結果であり、他の細胞内小器官に局在を示すタンパク質群の湿害発生への関与を解析することも重要である。

具体的データ

図1 冠水処理後の大豆の根と胚軸における遺伝子発現量の継時変化

表1 冠水処理により変動する大豆の細胞膜タンパク質のプロテオーム技術による解析

図2 冠水処理後の大豆の細胞壁タンパク質の二次元電気泳動パターン

図3 冠水処理後の大豆の根の木部におけるリグニン量の変化

その他

  • 研究課題名:大豆の湿害耐性等重要形質の改良のための生理の解明
  • 中課題整理番号:221b
  • 予算区分:科研費(B)
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:小松節子、中村卓司、中山則和(技会)、山本亮、島村聡、藤郷誠、南條洋平、西澤けいと、小林之人(長岡技大)、古川清(長岡技大)
  • 発表論文等:
    Komatsu S. et al. (2009) J. Proteome Res. 8:4487-4499
    Komatsu S. et al. (2009) J. Proteome Res. 8:4766-4778