野生稲Oryza officinalisの早朝開花性を利用した開花時高温不稔の回避

要約

野生稲O. officinalisの早朝開花性を導入した種間交雑系統では、親品種のコシヒカリに比べて開花時刻が2-3時間早まることにより、開花時の気温が35°C以上で発生する高温不稔を回避することができる。

  • キーワード:イネ、高温不稔、コシヒカリ、早朝開花性、O. officinalis
  • 担当:作物研・稲収量性研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8952
  • 区分:作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イネは開花時に35°C以上の高温ストレスにさらされると、葯の裂開や花粉の飛散が不良となり不稔となる。温暖化の進行により、熱帯地域のみならず、我が国でも、今後高温不稔による減収が懸念される。高温不稔軽減の方策として、早朝開花性の導入により、気温が低い時間帯に開花させる回避型育種が提言されてきた。

そこで、野生稲O. officinalisの早朝開花性をコシヒカリに導入した種間交雑系統を用い、開花時の高温不稔を回避できるかどうかを検証する。

成果の内容・特徴

  • 水稲品種「コシヒカリ」と早朝開花性のO.officinalisを種間交雑した系統(農林29号 (4x)/O. officinalis//コシヒカリ 、以下早朝開花系統)を、日中の最高気温が31°C程度の網室と39°C程度になるガラス温室(表1)で栽培すると、両系統ともガラス温室では網室より1時間程度早く開花する(図1)。ガラス温室ではコシヒカリで10-13時に開花し、35°C以上の高温に曝されるのに対して、早朝開花系統では7-10時に開花し、その時点の気温は35°C以下となる。
  • 網室では、コシヒカリと早朝開花系統とも不稔率は10%以下である。一方、ガラス温室では、特にコシヒカリで開花時刻が遅い籾ほど、著しく不稔率は増加する。早朝開花系統では、コシヒカリに比べて不稔発生が軽減される(図2)。
  • 両系統とも、開花時に38°Cの高温処理を行うと60%程度の不稔が発生する。しかしながら、少なくとも開花終了1時間後から38°Cの高温処理を行っても、ほとんど不稔は発生しない(図3)ことにより、両系統の高温不稔耐性は同等と考えられる。
  • 以上より、日中高温条件下で早朝開花系統の高温不稔発生が軽減されるのは、コシヒカリとの高温不稔耐性の違いによるものではなく、開花時刻が早いことにより、気温が低い時間帯に開花できるためであると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • 本実験で用いた早朝開花系統は、高温不稔の回避型品種育成の母本として有用である。
  • 1/5000aのワグネルポット試験の結果であり、圃場での検定は行っていない。
  • 本実験で用いた早朝開花系統は、2次枝梗着生籾の不稔率がコシヒカリに比べて著しく高いため、実験には1次枝梗着生籾のみを供試した。

具体的データ

網室とガラス温室における開 花調査時の気温の推移

1日における時刻別の開花籾率

1日における時刻別の不稔発生率

バイオトロンによるコシヒカリと早朝開花系統の高温不稔耐性の比較

その他

  • 研究課題名:イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
  • 中課題整理番号: 221-c
  • 予算区分:交付金(温暖化適応)
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:石丸 努、平林秀介、井田仁、高井俊之、荒井裕見子、吉永悟志、安東郁男、小川紹文(宮崎大)、
                       近藤始彦
  • 発表論文等:Ishimaru T. et al. (2010) Ann. Bot. 106: 515-520.