変異ALS遺伝子を利用した組換え細胞の選抜系はインド型イネにも適用できる

要約

インド型イネや日印交雑飼料用イネの培養細胞は、日本型イネの培養細胞と同程度にBS感受性であり、日本型イネと同じく変異ALS遺伝子とBSを組み合わせた組換え細胞の選抜系が適用できる。

  • キーワード:イネ、変異ALS、BS、インド型イネ、形質転換
  • 担当:作物研・稲遺伝子技術研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8949
  • 区分:作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ビスピリバックナトリウム塩(BS)はアセト乳酸合成酵素(ALS)を阻害する化合物の一つで、除草剤の有効成分として東南アジアを中心とした稲作で広く施用されている。特定の変異を持つALSはBSに非感受性であり、稲由来の変異ALS遺伝子とBSの組み合わせは、既存特許の回避やPA(社会的受容性)に配慮するとともに、除草剤抵抗性を付与できる新たな組換え細胞の選抜系として注目されている。
インド型イネや日印交雑飼料用イネは、ほ場においてBS剤に対する感受性が低いのに対し、日本型イネはBS剤散布で薬害を受ける場合があるほどBS感受性が高い。そのため、変異ALS遺伝子を利用した組換え細胞の選抜は日本型イネに適用可能でも、インド型イネや日印交雑飼料用イネには適用困難と考えられ、これまでに実施例の報告がなかった。そこで、インド型イネや日印交雑飼料用イネ培養細胞のBS感受性を評価し、変異ALS遺伝子を利用した組換え細胞の選抜系の適用可能性の範囲を明らかにすることを目的とした。

成果の内容・特徴

  • 幼植物期のBSに対する感受性程度はイネ品種間で異なる。インド型イネ「Kasalath」および日印交雑飼料用イネ「たちすがた」は、1μMのBS存在下でも成長が阻害されないのに対し、日本型イネ「日本晴」は0.25μMのBS存在下で成長が阻害される(図1)。
  • これに対し、「Kasalath」および「たちすがた」の培養細胞はいずれも、0.25μMのBS存在下で増殖阻害がみられ、幼植物期とは異なり「日本晴」と同等の高いBS感受性を示す(図2)。
  • 供試した「Kasalath」および「たちすがた」はいずれも、変異ALS遺伝子を導入した組換え細胞のBS選抜が可能である。BS耐性の組換え細胞は、変異ALS遺伝子と同時に導入した緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子産物の蛍光発色で確認できる(図3)。
  • インド型イネ「Kasalath」および日印交雑飼料用イネ「たちすがた」の形質転換効率は日本型イネ「日本晴」とほぼ同程度であり、「日本晴」と同様に変異ALS遺伝子とBSを組み合わせた組換え細胞の選抜系の適用で効率的に組換え体を作出することが可能である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は既存特許の回避やPAに配慮した組換え細胞の選抜系として、上記の供試品種に限らず、培養細胞でのBS感受性が高いイネ品種・系統に活用できる。
  • アグロバクテリウム法による効率的な形質転換が困難なイネ品種に当該選抜系を適用するには、あらかじめ供試品種ごとに培養条件の検討が必要である。

具体的データ

幼植物期での各供試品種のBS 感受性各品種で遺伝子組換えの起こっ た培養細胞の選抜とGFP 蛍光の確認

培養細胞 での各供試品種 のBS 感受性

各品種における形質転換効率

その他

  • 研究課題名:遺伝子組換え技術の高度化と複合病害抵抗性等有用組換え稲の開発
  • 中課題整理番号: 221h
  • 予算区分:委託プロ(新農業展開)
  • 研究期間:2008~2012年度
  • 研究担当者:谷口洋二郎、川田元滋、大島正弘、安東郁男、清水力(クミアイ化学)
  • 発表論文等:Taniguchi et al. (2010) Plant Cell Reports 29: 1287-1295