通気組織は湛水条件下におけるダイズ根系の呼吸代謝に貢献する
要約
ダイズでは湛水条件下において通気組織が発達し、その組織を通じて空気中の酸素が根系へ供給される。供給された酸素は根系の呼吸に利用される。また、根系で生じた二酸化炭素は通気組織を介して空気中に排出される。
- キーワード:ダイズ、耐湿性、通気組織、酸素供給、呼吸
- 担当:作物研・大豆生理研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8392
- 区分:作物
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
生育期の湿害はダイズの生産性を低下させることから、安定生産に関わる耐湿性の改良が求められている。湛水条件下においてダイズの茎や根、根粒にコルク形成層から発達するスポンジ状の通気組織(二次通気組織)には酸素を根系へ輸送する能力があることが知られている(平成18年度研究成果情報)。しかし、通気組織によって根系に供給される酸素量や供給された酸素が根系の呼吸代謝に利用されるのかについて、詳細は不明である。そこで、通気組織による根系へのガス輸送能力および低酸素環境下での呼吸代謝への寄与を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 通気組織が発達していない茎(対照区)や通気組織が冠水している区(湛水区右)ではガス層における酸素の減少速度は小さいが、通気組織が発達した茎で組織が水面上に出ている区(湛水区左)では、酸素の減少速度が大きい(図1、2)。
- 通気組織を通じて根や根粒に供給された酸素は呼吸に利用される(図3)。
- 通気組織は根系へ酸素を供給する機能の他に、根系で生じた二酸化炭素を空気中に排出する機能もある(図2)。
- 以上より、湛水条件下においてダイズの茎や根に発達する通気組織は空気と根系との間のガス交換を高め、湛水土壌中における低酸素環境下での根系の呼吸代謝に貢献している。
成果の活用面・留意点
- 通気組織はダイズの野生種とされるツルマメやダイズ品種全般に発達する。
- 通気組織の発達程度や形成速度などを改良することで、水田転換畑で発生する湿害を緩和できる可能性がある。
-
耐湿性には不定根形成や有害還元物質耐性など他の生理・形態的要素なども関わっているので、耐湿性品種育成にはこれらの形質も考慮する必要がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:大豆の湿害耐性等重要形質の改良のための生理の解明
- 中課題整理番号:221b.2
- 予算区分:交付金プロ(実用遺伝子)
- 研究期間:2006~2009年度
- 研究担当者:島村聡、山本亮、中村卓司、中山則和、平賀勧、島田信二、小松節子
- 発表論文等:Shimamura S. et al. (2010) Ann. Bot. 106 (2):277-284