ダイズ出芽期の冠水はミトコンドリア膜の特定のタンパク質発現を顕著に抑制する
要約
ダイズの出芽期の冠水は、根と胚軸のミトコンドリアの機能に影響を及ぼし、クエン酸回路および電子伝達系の複合体Iには障害を与えないが、複合体III、IV、Vを阻害してATP産生を抑制する。
- キーワード:ダイズ、出芽期、湿害、プロテオーム解析、ミトコンドリア
- 担当:作物研・大豆生理研究チーム
- 代表連絡先:電話029-838-8693
- 区分:作物
-
分類:研究・参考
背景・ねらい
わが国の水田転換畑におけるダイズの栽培では、湿害が発生し生産が不安定となるので、耐湿性ダイズ品種の開発が重要である。湿害はエネルギー代謝効率の低下を招くが、その詳細な作用機作は明らかでない。本研究では、ダイズの出芽期の湿害発生時に生育遅延を起こす根と胚軸における、ミトコンドリアタンパク質の変動を明らかにすることにより、湿害を抑制するために必要な湿害発生機構に関する分子生物学的知見を得る。
成果の内容・特徴
- ダイズ品種「エンレイ」を播種後2日目から2日間の冠水処理後、ミトコンドリアを精製した。マトリックスを二次元電気泳動により分離した結果、386個のタンパク質の内、冠水条件下で27個が増加、7個が減少した(図1)。一方、膜をブルーネイテイブ電気泳動により分離した結果、72個のタンパク質の内、冠水条件下で4個が増加、11個が減少し、膜での減少タンパク質数の比率の大きいことが明らかである(図1)。
- 冠水条件下で変動するミトコンドリアタンパク質を質量分析計で解析した結果、クエン酸回路で働くリンゴ酸脱水素酵素やアコニターゼ、コハク酸エステル脱水素酵素等および電子伝達系の複合体Iに存在するタンパク質は増加し、複合体III、IV、Vに存在するタンパク質は減少する(図2)。
- 以上、冠水条件下のダイズにおいて、クエン酸回路および電子伝達系の複合体Iは障害を受けないが、複合体III、IV、Vが阻害されATP産生が抑制されることを示す(図2)。
成果の活用面・留意点
- 本研究はミトコンドリアタンパク質に焦点を当てた場合の結果であり、他の細胞内局在を示すタンパク質群の湿害発生への関与を解析することも重要である。
-
ダイズのミトコンドリア膜の改変により、出芽期のダイズの冠水ストレスによる生育遅延等の改善が示唆される。
具体的データ


その他
- 研究課題名:大豆の湿害耐性等重要形質の改良のための生理の解明
- 中課題整理番号:221b.1
- 予算区分: 科研費(B)
- 研究期間:2006~2010年度
- 研究担当者:小松節子、山本明史(長岡技大)、NOURI Zaman、中村卓司、南條洋平、西澤けいと、
古川清(長岡技大)
- 発表論文等:Komatsu S. et al. (2009) J.
Proteome Res. 8:4766-4778, Komatsu S. et al. (2011) J. Proteome Res., 10:3993-4004.