「いただき」を遺伝的背景としたイネ近縁野生種Oryza glumaepatula (IRGC-Acc100968)染色体断片導入系統群

要約

「いただき」を遺伝的背景としたスリナム原産野生種Oryza glumaepatula (IRGC-Acc100968)の染色体断片導入系統群(47系統)を作出し、作物研究所ホームページで公開している。

  • キーワード:染色体断片導入系統群(Introgression lines:ILs)、O.glumaepatula、DNAマーカー、いただき、イネ
  • 担当:作物開発・利用・水稲品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 029-838-8808
  • 研究所名:作物研究所・稲研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イネ近縁野生種は、稲の栽培化の過程で栽培種には失われた未利用遺伝子が豊富に保存されていると考えられる。そのため、病害虫抵抗性をはじめストレス耐性、収量性について新規の遺伝子が数多く報告されている。しかし、野生種は不良形質を多く持つため、それらが持つ有用遺伝子を直接評価することは不可能である。そのため、野生種の多様性・有用性を効率的に評価し、育種的利用を図るため、「いただき」を遺伝的背景とする野生種染色体断片導入系統群(Introgression Lines: ILs)を作出する。

成果の内容・特徴

  • 本系統群は、スリナム原産O. glumaepatula (IRGC-Acc100968)を1回親とし、「いただき」を4回戻し交雑した後代から、ゲノム全体に分布する119個のDNAマーカーを利用して選抜した47系統からなる(図1)。
  • 各系統は、O. glumaepatula由来の一部の染色体断片を有し、それ以外のゲノム領域の大部分は「いただき」型の染色体を有する。導入されたO. glumaepatula染色体領域は系統群全体としてゲノム領域全体をほぼカバーしている(図1)。
  • 研究目的用として本系統群の配付を行う。

成果の活用面・留意点

  • 本系統群は、O.glumaepatulaの多様性・有用性を効率的に評価でき、遺伝解析の研究材料や育種母本として利用できる。
  • 「いただき」を遺伝的背景としているため、実用的な価値が高い。
  • 一部に、O.glumaepatulaの染色体でカバーしていない領域が存在する。また目的領域以外にも野生稲の染色体断片が存在する。
  • 本系統群の遺伝子型の詳細や分譲の手続きについては、http://nics.naro.affrc.go.jp/ine_idensi/で公開している。
  • 本系統群を用いて得られた研究成果に関する知的財産権は、利用者に帰属または提供側との共有になる場合がある。
  • 本系統群の親O.glumaepatula(IRGC-Acc100968)の種子は配布できない。

具体的データ

図1.O.glumaepatula染色体断片導入系統群(IGSLs)47系統の遺伝子型

(平林秀介)

その他

  • 中課題名:米粉等加工用・業務用水稲品種の育成及び米の未利用成分利用技術の開発
  • 中課題番号:112a0
  • 予算区分:委託プロ(DNAマーカー、QTL遺伝子、新農業展開NVR)
  • 研究期間:2002~2010年度
  • 研究担当者:平林秀介、野々上慈徳、竹本陽子、竹内善信、小川紹文、加藤 浩、井辺時雄、根本 博、矢野昌裕、安東郁男
  • 発表論文等:Hirabayashi H. et al.(2010)Breed. Sci. 60(5):604-612